M.K通信 (15)核の脅威

5年前の2013年3月28日、当時のオバマ政権が韓国全土で行われた「フォールイーグル」米韓合同軍事演習に、B-52戦略爆撃機とともに、B-2ステルス戦略爆撃機2機を派遣し、爆撃演習場に訓練弾の投下を行わせたことを知る人は、朝鮮半島の軍事ウォッチャー以外にほとんどいない。

B-2ステルス爆撃機は、核搭載可能な最新鋭の戦略爆撃機。 B-2が初めて実戦に投入されたのは1999年のコソボ紛争で、アフガニスタン、イラク、リビアなどにも投入された。

B-2ステルス爆撃機の米韓合同軍事演習への派遣は、米国から朝鮮半島への初めての無着陸往復作戦として行われた。

この年の「フォールイーグル」米韓合同軍事演習には原子力潜水艦も投入されただけでなく、西太平洋には空母打撃群も展開した。

さらにオバマ政権はこの演習期間中に北朝鮮を標的にした大陸間弾道弾の発射実験も予定していた。 北朝鮮の激しい反発で延期されはしたものの後に行われた。

このように2013年3月の「フォールイーグル」米韓合同軍事演習は、核攻撃可能な戦略爆撃機、原子力潜水艦、ICBMの3大戦略兵器がすべて投入されただけではなく、韓国や太平洋上の米軍基地からではなく、米国本土から北朝鮮への核攻撃を想定した極めて挑発的な軍事演習であった。

この類例のない核恫喝に北朝鮮が激しく反発、一触即発の危機が作られたことは記憶に新しい。

B-2ステルス戦略爆撃機2機によるはじめての無着陸往復作戦強行から3日後の3月31日、北朝鮮では朝鮮労働党中央委員会全体会議が招集され、経済建設と核兵器開発を同時に推し進める併進路線が採択され、昨年のワシントンを標的に収めるICBM(火星ー15)の試射と水爆実験につながったことを忘れてはならない。

3大戦略兵器が動員された2013年3月の「フォーイーグル」米韓合同軍事演習から、北朝鮮が「国家核戦力の完成」を宣言した昨年までの流れだけを見ても、北朝鮮による核兵器開発が米国の度重なる核の脅威に対応した自衛的性格を帯びたものであることは明らかだ。

世界最大の核兵器国である米国による核の脅威、核による恫喝を無視して、一方的な核放棄を要求しても北朝鮮が受け入れるはずがない。

朝鮮半島に核兵器を持ち込み、核の脅威を一方的に加え続けてきたのは米国だ。

米国が、核武装したMGR-1とM65 280mmカノン砲を、韓国に配備したのは1958年1月のことだ。 米国はこのために、核兵器とミサイルの持ち込みを禁じていた休戦協定第13節(d)を一方的に廃棄した。 休戦協定を破り捨てたも同然だ。

米国が韓国に核兵器を持ち込んだのは、北朝鮮が核兵器開発に着手するはるか以前であったことを記憶のとどめ置く必要があろう。

冷戦終結後に米国は韓国に配備された戦術核兵器を撤去したとされるが、これを第三者が検証したわけではない。 NCND政策によって真相は藪の中だ。

核兵器の存否について「肯定も否定もしない」(Neither confirm nor deny)NCND政策は、核兵器の小型軽量化に伴い海外配備や航空機、艦船への搭載が進んだことからとられたもの。 戦術核兵器の撤収は、戦略爆撃機や原子力潜水艦への配備にとってかわっただけの話だ。

事実、米国は1976年らか韓国で始めた大規模な米韓合同軍事演習である「チームスピリット」では、ほぼ毎年B-52戦略爆撃機を投入して核爆撃演習を行ってきた。

韓国の南端にある済州島に米空軍基地がある。 ここを起点にソウルに向かったB-52戦略爆撃機はソウル上空でほぼ直角に西に機種を向け、西海の無人島で核模擬爆弾の投下演習を行うのだ。 ソウル上空から無人島までの距離は、ソウル上空から北朝鮮の首都平壌までの距離と一致する、という具合だ。 北朝鮮が「チームスピリット」を「核戦争軍事演習」と非難し続けたのは当然であった。

「チームスピリット」は1994年に中断され「フォールイーグル」に継承された。 数十万人が動員される世界でも有数の大規模軍事演習で、トランプ大統領が朝米首脳会談直後の記者会見で指摘したように挑発的な合同軍事演習であった。

このように米国による北朝鮮に対する核による威嚇は空前絶後のものと言っても言い過ぎではない。 にもかかわらず、米国の核脅威から自国を守るための核開発を「脅威」と一方的に非難することは、盗人が泥棒と叫ぶ愚かしい行為に等しい。

「朝鮮半島を核兵器と核の脅威がない平和の地」に。

去る9月に平壌で行われた南北首脳会談での合意だ。

第2回朝米首脳会談が想定されているが、米国の強硬勢力とそれに追従する韓国の保守強硬勢力、日本政府とマスコミは、北朝鮮の一方的核放棄を叫び続けている。

しかし、上述したように米国による核の脅威が除去されないまま北朝鮮の核放棄はありえず、朝鮮半島の非核化は実現されない。

米国による核の脅威の根源は、朝鮮半島の冷戦を北朝鮮のレジームチェンジによって解消しようとする敵対政策にある。

この敵対政策が転換されてこそ、朝鮮半島の非核化は前進することができる。(M.K)

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元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。