ピント外れ
ピント外れの提案だ。 文在寅大統領は4月27日に青瓦台で行われた主席補佐官会議で、「コロナ協力」を目玉に、▲南北鉄道連結▲非武装地帯を国際平和地帯に変えるための南北共同事業▲南北共同遺骨発掘▲離散家族再会などの南北協力交流案を示した。 この日は南北板門店宣言2周年になる日だが、違和感があるのは、文大統領が打ち出した案は、板門店宣言とその後の9月平壌宣言で南北が合意、約束した「金剛山観光、開城工団再開」には一言も触れずに、文在寅政権が一方的に提案している案だけを並べたことだ。
南北鉄道連結とは聞こえはいいが、これは東海線の南側区間の工事のことで、北側との連結工事でないばかりか、その予定もなく展望もない。 「南北鉄道連結」というのは一種の目くらましだ。 非武装地帯を国際平和地帯に変えるというが、休戦協定下では不可能だ。 文在寅大統領は当初朝米、南の終戦宣言について述べていたが、米国が昨年2月のハノイ会談でビックディールを持ち出し、終戦宣言、平和協定の意思がないとわかるや、二度と口にしたことがない。 「非武装地帯を国際平和地帯に変える」云々はその代わりに持ち出したようだが、非武装地帯を管轄、管理しているのは米国で、韓国は大統領でさえ立ち入る権限もない。 朝米間で平和協定が結ばれなければ不可能なのだ。
目玉として打ち出した「コロナ協力」について言えば、文在寅大統領が唱える「南北協力」の真意を疑わざるを得ない非現実的提案だ。
文在寅政権を代弁している「ハンギョレ新聞」(4月28日付け社説)は、文大統領の「コロナ協力」提案は、朝鮮が「国際社会の制裁に加えてCOVID-19事態まで重なり、大きな困難を負っている」のを前提に出されたと指摘している。 つまり朝鮮側がコロナ感染者が一人もいないと表明しているにもかかわらず、コロナ感染が蔓延し、困難な状況にある、の判断をもとに出された提案だということだ。
朝鮮側は最高意思決定機関である朝鮮労働党政治局会議(4月11日)で、「安定的形勢を維持」していると感染者が出ていないことを確認して、引き続き「安定的形勢を維持」することに力を注ぐことを決定している。 文在寅政権がこれを信じようと信じまいと勝手だが、感染者がいないと言っている朝鮮と何をどう「協力」するのか? 文在寅政権が最近ある民間団体にマスクと防護服の提供を許可したという。 朝鮮はマスクも防護服もなく困っているはずだから提供して対話の道を開くというのが狙いであるようだ。 朝鮮はマスクも防護服も大量生産しており事足りていることは「労働新聞」をはじめとするマスコミ報道をみれば明らかだ。
「コロナ協力」提案の狙い
「コロナ協力」が実現する可能性はない。多少の時間があれば証明される。
文在寅政権は愚かなのか? でなければ何か狙いがあるのか? それとも選挙での与党大勝以後高まる南北関係改善世論に対処するための一時的方便なのか?
どれも当たっていそうだが、確認しておかなければならないことは、文在寅政権はトランプ大統領と緊密に連携して、新型コロナウィルスを利用して完全に中断した朝米、南北対話を再開させようとしていることだ。 去る3月初旬文大統領は、朝鮮との「コロナ協力」について提案、人道問題であるため米国とも協議済みであることを明らかにした。
3月中旬、トランプ大統領が金正恩委員長に親書を送り「コロナ支援」を申し出たことは偶然ではあるまい。 3月22日金與正朝鮮労働党第1副部長が談話を発表して、「ウイルス防疫部門で協力する意向」を示したことを確認しながら、「公正さとバランスが保たれず一方的で過欲的な考えをやめないなら、両国の関係は引き続き悪化一路へ突っ走ることになるであろう」と朝鮮に対する敵対政策が撤回されない限り朝米対話に復帰することはないとの姿勢を鮮明にしている。 また、3月30日、朝鮮外務省の新任対米協商局長はで談話で「朝米両首脳の親交がいくら立派で堅固であっても米国の対朝鮮敵視政策を変化させることができず、米国がそれ程にまで唱える対話再開も、結局は我々が行く道を止めてみようとする誘引策にすぎない」と一蹴している。 これも朝鮮の一方的な核放棄を求める対話には応じないというメッセージだ。
このようにコロナ感染症を利用した対話再開への、米韓の思惑は失敗している。 にもかかわらず文大統領は執拗に「コロナ協力」にしがみついている形だ。 驚かざるを得ないのは文在寅政権が水面下で、日本のリベラルなマスコミ人と学者などに「朝鮮は困っている。 SOSを出している」と吹聴していることだ。 文在寅政権の分析力がこれほど愚かであるとは信じがたいが、目の前で起こっている現実だ。
「コロナ協力」提案は、誤った、愚かな判断に基づいた、実現可能性のない、朝鮮の核放棄を求める非核化対話の再開、という狙いをもって進められているものと判断できる。
文大統領の親米路線
一部では、文大統領は反米で自主路線を好み南北和解協力に積極的なのになぜ朝鮮は非難するのかと、疑問視する向きがある。 筆者に直接質問がぶつけられたこともある。
躊躇なく言うが幻想だ。
文在寅政権の対北政策の分岐点は一昨年の10月にある。 文在寅大統領自らが南北首脳会談で約束した金剛山観光と開城工団を再開させようとしたがトランプ大統領が待ったをかけた。 この年の10月10日のことだが、「我々の承認なくそのようにしないだろう」「彼らは我々の承認なしに何もしない」と述べたのだ。この発言を契機に韓米ワーキンググループが作られ、すべて米国の承認なしには進められなくなり、金剛山観光と開城工団再開はストップすることになった。
国際関係において政策を「承認」する国と「承認」されなければ政策を進められない国があるという現実から目を背けてはならない。 遠慮せずに言わしてもらえば韓国は表向きの体裁とは異なり、米国の属国、軍事保護領にすぎない。 大韓民国の成り立ちから説明すればよいが長くなるので避ける。 文在寅政権は米国の軍事保護下にある中道政権にすぎないということが、はからずもトランプ大統領の「承認」発言であぶりだされたと言える。
それでも文在寅政権は、米国に抵抗して独自政策を進めようとしてるのではないか、と主張する向きがある。 もう一度言うが幻想だ。
文在寅政権はローソクデモで弾劾された朴槿恵政権と親米という点では何も変わらない。 異なるのは保守か中道かという点だけだ。
文在寅政権発足時にTHAADの配備が問題になった。 ローソクデモの中心にいた進歩的民主化勢力は反米の旗印を掲げてTHAADの配備に反対した。 米国の要求と政権発足の原動力になった反対の板挟みの中で文在寅政権は「臨時」配備ということで何とか反対勢力を説得した。
次に日本の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄をめぐる問題でも文在寅政権は米国の要求に応じて昨年12月までは破棄を「猶予」と表明した。 しかし猶予期間はとっくに過ぎているが破棄する兆しはない。 韓日摩擦は何も解決していないのに、だ。
さらにホルムズ派兵をめぐっても、派兵を決めておいて、米国のソレイマーニー司令官暗殺で世論が悪化すると「米韓の立場は必ずしも一致しない」と表明して交わし、世論が収まるのを待って静かに派兵する手法を取った。
このように文在寅政権は「臨時」「猶予」などの欺瞞的言辞と手法で巧みに世論をかわし親米路線を貫いてきた。
文在寅政権のこのような姿勢を韓国の進歩的民主化勢力は「米国にひれ伏し日本に振り回されている」と指弾した。
文在寅大統領の親米ぶりは南北関係問題においていかんなく発揮されている。 トランプ大統領の「承認」発言以後、文大統領は首脳会談での合意を翻して朝鮮に「先非核化」を露骨に要求、米国を代弁するようになった。 また金剛山観光と開城工団再開問題においても、金大中元大統領は反対する米国との深刻な軋轢を乗り越え実現させたが、文在寅大統領はトランプ大統領のイエスマンでしかない。
「吸収統一」追及する文在寅政権
朝米、南北関係の重大な障害になっている韓米軍事演習も米国に追従する文在寅大統領の積極的な承認下で行われている。
昨年8月に行われた合同軍事演習で、米軍の支援下で占領した北の地域で占領地住民統治訓練が行われたことを知る人はあまりいない。
南北対話、協力のスローガンの影で、文在寅大統領が何を追及してるのかを鮮明に見せてくれる。 統一部は、今年中高等学校と大学、公共機関、図書館などで利用される教材で「ドイツ式統一」「吸収統一」を韓国の統一政策であることを謳っている。 昨年までは朝鮮の反発を恐れ表面化させていなかった。
朝鮮の体制崩壊、「吸収統一」が文在寅大統領の対北政策であることから目を背けるべきではない。 事実を直視すべきだ。
韓国でコロナ感染を懸命に防いだことは評価すべきだが、「コロナ協力」に埋め込まれた米韓の狙いは明らかだ。 「コロナ協力」はありえず、文在寅大統領に南北関係の改善を期待するのは幻想である。 (M.K)
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