M.K通信 (2)強硬関与とCVID

朝鮮戦争の終戦宣言を拒否し、北朝鮮の「先非核化」を唱える米国が執着するCVIDとは一体何なのか?

「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化」

およそ主権国家間の対話と交渉において、常軌を逸した奇妙で傲慢なこのスローガンは、ブッシュ政権の出帆とともにネオコンによって考案された北朝鮮に対する強硬策の象徴である。

ブッシュ政権の副大統領チェイニー、国防長官ラムズフェルド、国務次官ボルトンなどのネオコン勢力は、クリントン政権のジュネーブ合意が融和的だとし、北朝鮮政策の見直しに着手する。

この結果は2001年6月7日、ブッシュ大統領声明によって示された、対北朝鮮対話の3議題に集約された。

  • 94年の朝米枠組み合意(ジュネーブ合意)履行の改善(improved implementation)
  • 北朝鮮のミサイル開発に対する検証可能な規制(verifiable constraints)および北朝鮮のミサイル輸出禁止
  • 北朝鮮の通常戦力の脅威削減(conventional military posture)、だ。

ブッシュはこの3項目を提示しながら、北朝鮮は先に行動しなければならないと指摘した。

事実上のジュネーブ合意廃棄宣言であり、北朝鮮に先武装解除を強要する傲慢で横暴な要求で、その狙いは北朝鮮の体制転換にあった。

ブッシュ政権のこの強硬策は、後に6者会談の米次席代表を務めたことがあるビクター・チャによって、 CVID(完全かつ検証可能かつ後戻りできない核を含めた WMD の放棄)を原則とし、この原則に北朝鮮が応じなければ体制転換も辞さない「強硬関与(Hawk Engagement)」として理論化された。(菱木一美「第 2 の北朝鮮核危機」と米外交2006)

ブッシュ政権下で、クリントン政権の融和を排し、作られたこのCVIDを原則とする「強硬関与」はオバマ政権によって引き継がれ現在に至っている。

CVIDの核心は、ボルトンが重ねて指摘しているように主権を蹂躙する「無制限な査察」にあり、その目的は該当国を軍事的に丸裸にして武装解除することにある。

北朝鮮外務省スポークスマンが、ブッシュの声明発表後の6月18日に談話を発表し、「米国が協商を通じてわれわれを武装解除させる目的を追求する」もので、「性格において一方的かつ前提条件的で、意図において敵対的」と非難した。

CVIDは北朝鮮に対する「強硬関与」の原則としてつくられたものだが、イラクおよびリビアにも適用された。

第一次湾岸戦争で敗北したイラクは無制限な査察を受け入れざるを得なかった。米国と国際機関による主権を無視した査察は約千回ののぼったと伝えられる。

この査察でイラクに大量破壊兵器が存在しないことを確認したにも関わらず、ブッシュ政権は、イラクに大量破壊兵器が存在すると国際世論を欺き軍事侵攻、フセイン政権を崩壊させた。ブッシュ政権がイラク戦争に踏み切ったのは、大量破壊兵器がないことを知っていたからであり、その目的は石油利権にあったことは広く知られている。

またリビアに対しては、圧力と甘言でCVIDを受け入れさせ核施設を放棄させた数年後に、反カダフィ武装蜂起を支援しNATOによる軍事介入でカダフィ政権を崩壊させた。

しかし、CVIDを原則に定めた「強硬関与」は北朝鮮に対してはその目的を果たせなかったばかりか強力な反撃を招いた。

歴代米政権の圧力と制裁はCVIDどころか、強力な核兵器の開発を招いた。

にもかかわらず、ネオコンなど強硬派は今なお、失敗に帰したCVIDに執着し、古い手法を繰り返している。制裁と圧力によって北朝鮮を屈服させられると考えるのは愚かな幻想にすぎない。(M.K)

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元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。