トランプ大統領が24日、翌週にも予定されていたポンペオ国務長官の訪朝を先延ばしすることを指示し、その真意に関心が集まっている。
同大統領が「金委員長に最も温かい安否の挨拶と敬意を伝えたい。 私はすぐに彼に会えることを楽しみにしている!」と述べていることからも、朝米首脳会談のモメンタムを維持しようとしていることは明らかだ。
強い反対にも関わらず、朝米首脳会談に続き米ロ首脳会談を行ったトランプ大統領には今、激しい風雨が吹き荒れており、この時期に訪朝してこう着状態におちいっている朝米交渉をこじらせるよりも、暴風雨は避けてやり過ごすのが賢明な措置なのかも知れない。
ポンペオ国務長官の訪朝が先延ばしされたことを契機に米大手マスコミは「北朝鮮は非核化に逆行」しているとのネガティブキャンペーンを強化しており、韓国の保守系紙と日本の大手マスコミはそれをコピーすることに明け暮れている。特に朝鮮半島の非核化問題に何の権限もなければ調査能力も皆無なIAEAの報告書は、朝米合意に反対する米強硬派とそれに追従する同盟国保守政権の意を汲んだプロパガンダにすぎないと指摘されている。
米国では、次期大統領選挙に大きな影響を与える中間選挙が近づくにつれ、反トランプキャンペーンが激しさを増している。
その根底には、米ソ冷戦終結後ネオコンとリベラルホークが主導したクリントン、ブッシュ、オバマの歴代政権が押しすすめたタカ派の外交政策と介入政策を公然と批判するトランプ大統領に危機感を持つネオコンとリベラルホークの必死の抵抗がある。
ビンガムトン大学 (ニューヨー州立大学ビンガムトン校)のジェームズ・ペトラス社会学教授は、米ソ冷戦終結後、米国の歴代政権が世界各地で行ってきた、独立国、敵対国に対する政権転覆工作を研究し、その結果を「グローバル リサーチ」(2018年5月1日)で発表している。
「帝国の征服への道: 和平と軍縮協定」と題した、ペトラス教授の研究は、北アフリカ (リビア)、中東 (イラク、パレスチナ、シリアとイラン)、アジア(北朝鮮)と中南米(コロンビアのFARC)などにおよび、米歴代政権がとった手法と特徴などの分析に止まらず、米国と相対する国々が堅持すべき指針まで示している。
同教授によれば、ネオコン、リベラルホークが主導した歴代米政権の手段と手法は、①敵対国を悪者として描く世界的プロパガンダ・キャンペーン②同盟諸国の援助・協力獲得③「反政府派」、もしくは「民主派」と呼ばれる現地人と外国人傭兵の徴募、雇用契約、訓練と武器供与④国内の社会的緊張や政権の政治的不安定を引き起こすための経済制裁⑤和解交渉の提案―経済制裁解除の約束、外交的承認や平和的共存と引き替えの戦略的兵器の変更を含む非互恵的譲歩を要求する交渉、などで、戦略目標は、打倒、占領、政権転覆の実現と従属政権の成立だ。
イラクに対する全面戦争を含め、歴代米政権の政権転覆、侵略を批判的視点で分析し断罪した研究は極めて稀で興味深い。
ペトラス教授は「われわれの研究で、ワシントンが帝国構築を強化するために『交渉』と『和平プロセス』を戦術的兵器として、どのように利用しているのかを明らかにした」としながら、「全てのケース・スタディーが実証している通り、アメリカのような帝国建設者にとって、交渉は、弱体化させ、攻撃するべく独立国家を武装解除させるための戦術的陽動作戦」に過ぎず、「敵対国の武装解除と国防軍の動員解除によって、政権転覆のような戦略目標追求を促進する」と指摘している。
トランプ大統領は大統領就任の前後から米国の「世界の警察」の役割を否定し、歴代の前政権が進めた外国に対する政権崩壊作戦を止めるべきだと主張、ペトラス教授が指摘した強硬路線とは一線を画す姿勢を鮮明にしている。
同大統領の姿勢は、シリアからの米軍撤退、ロシアとの関係改善、NATO批判、駐韓米軍の撤退への言及などに表れている。ポンペオ国務長官の訪朝が延期された部分的なことをもってトランプ政権の姿勢変化を云々し、北朝鮮を非難するのは、愚かなネガティブキャンペーンに過ぎない。
タカ派外交政策を否定するトランプ大統領の政策は、その推進者であったネオコンとリベラルホークの立地を狭め衰退をもたらすだろう。
タカ派外交政策と一線を画すトランプ大統領の果敢な最初の行動が朝米首脳会談であり、プーチン大統領との首脳会談へと続いている。
煮え湯を飲まされ続けてきた北朝鮮、クリミア半島の併合と東部地域での内戦でウクライナ「カラー革命」を実質的な失敗に追い込み、シリアでもアサド政権を支援して反政府武装勢力を敗退させたロシアに対する、オバマ元大統領、ヒラリークリントン元国務長官などリベラルホークの反感は憎悪に近いと伝えられる。
大統領選挙直後からオバマ、クリントンに連なる民主党の上層部がネオコンを巻き込み、実態が定かでない「ロシアゲート」を中心に反トランプキャンペーンを激化させているのはこのためだ。
しかし、北朝鮮、シリア、ウクライナなどでの失敗が示すように、強硬な政権崩壊作戦は、トランプ大統領が就任する前にすでに破綻していた。
朝米、米ロ首脳会談、アフガニスタンで国土の70%を支配するに至ったタリバーンとの交渉、さらにはイランとの首脳会談も辞さない構えを見せるトランプ大統領の行動は、歴代政権のタカ派外交政策が招いた失敗を収拾するためにも必然的であるように思える。
朝米、米ロの関係改善に反対するなどの反トランプキャンペーンは時代錯誤だ。(M.K)
コメントを残す