銃口を向け合って対峙する一方が、銃を構えたまま相手に銃を下ろせと要求する。 すると要求された相手は、私は銃を置いてもよい。 そのためにはあなたも銃を置くべきだ。 同時に行動しようではないか!と提案する。 しかし、一方はこの提案に耳を貸さず、銃を下ろさないのは、その意思がないからだと騒ぎ立てる。
朝米首脳会談以後、硬直化した両国のやりとりを単純に表現するとこうなる。
自らは銃を構えたまま相手に銃口を下げよと要求する一方的な主張と、同時に行動しようという提案の、どちらが合理的で妥当かは小学生でも理解できるのではないか。
3年間の熱戦に続き65年間も冷戦下にある国家対国家が核兵器で対峙しているのである。 一方的な非核化要求が、いかに馬鹿げた主張であるかは明らかだ。
米国の核リストの提出要求を、北朝鮮は「強盗のようだ」と一蹴した。 朝鮮半島で米国はオバマ前政権の時までも北朝鮮に対する核恫喝を繰り返し、戦略爆撃機による核模擬爆弾の投下演習を半ば公開的に行ってきた。 もし北朝鮮が朝鮮半島有事に備えた米軍の核爆弾の保管場所とリストの提出を求めたら米国はどう反応するのだろう。 「強盗のようだ」程度のコメントではおさまるまい。 それほどに核リストの提出要求は傲慢だということだ。 査察、検証なるものも同様で、米国が主権国家に要求する根拠も権限もない。
非常識で分別がなく一方的な非核化要求がはねつけられると、米国の強硬派は北朝鮮の非核化意志を問う稚拙なプロパガンダと、ほころびが顕著になりはじめた制裁を取り繕うことに注力しているように見える。圧力で一方的要求を実現しようとする試みだが無理筋で、これでは朝鮮半島の非核化は遠のくばかりだ。
北朝鮮の非核化意志は明快だ。 安全保障が担保されるなら核兵器は必要なく非核化に取り組むと重ねて表明している。
金正恩委員長は5日、韓国特使一行との会見で、「朝鮮半島で武力衝突の危険と戦争の恐怖を完全になくし、この地を核兵器も、核の脅威もない平和の地にしようというのがわれわれの確固とした立場であり、自身の意志であると非核化意志を重ねて確約しながら、朝鮮半島の非核化実現のために北と南がより積極的に努力していこう」(朝鮮中央通信)と指摘、非核化への揺るぎない姿勢を再度明らかにした。
このような姿勢に従い北朝鮮は、核、ミサイル実験を中止、凍結しただけではなく核実験場の爆破、廃棄など一連の先行措置をとっている。
米国の大手マスコミが流布し日本のマスコミが追従して報道している、高濃縮ウランとミサイル生産の継続、核爆弾を新規に製造の可能性等々の虚偽情報は、北朝鮮の非核化意志に疑いを生じさせるための稚拙なプロパガンダに過ぎない。 これらの情報の特徴は、情報源と内容が極めてあいまいで、「専門家の分析」「可能性」などの言葉でごまかしていることだ。 中には衛星情報に基づいたものとして核弾頭保管施設の入口を塞いだ云々の情報も報じられているが、これによれば北朝鮮では容易にミサイル攻撃の的になる地表に露出した施設に核弾頭を保管していることになる。 笑い話にもならない。 もしかしたら米国では、核弾頭保管施設が地表に露出しているのか?
問われるべきは北朝鮮の非核化意志ではない。
米国は朝米共同声明で「安全保障の提供」意志を表明し「強固な平和体制の構築」を約束した。
今、問われるべきは、米国が確約した「安全保障の提供」意志であろう。
米国がとった措置はトランプ大統領の決断による米韓合同軍事演習の中止だけで、国務省は終戦宣言すら反対している。 終戦宣言を否定し北朝鮮に「追加的措置」を要求するポンペオ国務長官の姿勢は明らかにトランプ大統領の意に反しているように見える。
銃口を向け合ったまま、戦争状態を維持したまま安全保障を語ることはできない。 早期の終戦宣言こそ米国の「安全保障の提供」意志を示す具体的な出発点になるのではないのか。
安全保障への具体的措置を欠いたまま北朝鮮に非核化措置を求めるには無理がある。
この無理を通そうと、ポンペオ長官率いる国務省はすでにほころび始めた国連制裁を維持強化するのにやっきになっている。
ロシアが北朝鮮に対する制裁の履行状況に関する国連の報告書の公表に反対していることに関連して、14日に国務省で行った記者会見でポンペオ長官は、ロシアを非難しながら国連の制裁は北朝鮮に「非核化を受け入れさせる努力の中心にある」と述べた。
しかし、中国とロシアは制裁の強化に反対するだけでなく緩和を求めている。 さらに文在寅政権は、「制裁違反に当たる」として反対した米国を押し切って、14日に南北連絡事務所の設置にこぎつけた。
ほころびはじめた制裁は繕いようがない。 北朝鮮に対して矢継ぎ早に発する独自制裁は米国の狼狽ぶりを示している。
圧力路線は歴代の米政権が何度も試みて失敗を繰り返した愚かな政策だ。
北朝鮮の核兵器は安全保障のために開発された。 安全保障の担保がない非核化はない。(M.K)
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