M.K通信 (12)ポンペオの虚言

朝鮮半島の非核化をめぐり、9月25日から10月1日の日程で開かれた国連総会で、関係各国による激しい駆け引きが繰り広げられた。

最も注目を浴びたのが、第3回南北首脳会談(9月18日~20日)の結果をもって総会に参加した文在寅韓国大統領とトランプ米大統領の会談。 文在寅大統領の尽力とトランプ大統領の積極的姿勢が相まって、第2回朝米首脳会談の道筋が描かれたように見える。

しかし、焦点である終戦宣言をめぐる思惑は入り乱れており、その前途は予断を許さない。

というのも、米国で朝米会談を司る実務の中心にあるポンペオ国務長官が、相変わらず終戦宣言に否定的立場を崩しておらず、北朝鮮の一方的な非核化を追及する姿勢を保っているためだ。

9月27日にニューヨークの国連本部で北朝鮮を主題に安全保障理事会(安保理)長官級会議を主宰したポンペオ長官は、「国際社会の圧迫作戦」が「外交的突破口を作った」と、述べながら、「明るい未来」を云々しながら、北朝鮮に一方的な非核化をせまった。

ポンペオ長官の解釈によれば、北朝鮮は圧力に屈して朝米対話に応じたことになる。 それも史上初の首脳会談に、だ。

北朝鮮は、米国との戦争に敗北して従属した同盟国ではない。 65年にもわたり冷戦を争ってきた米国の敵対国だ。 この敵対国が圧力に屈したのに、なぜ米国は首脳会談に踏み切ったのか? クリントン政権やブッシュ政権のように次官補級でも十分だったのではないか?

ポンペオ長官は、なぜ米国が北朝鮮との首脳会談に踏み切ったのか、という素朴な疑問に答えていない。 さらになぜ圧力に屈した相手と、だれが見ても同等の立場で和平プロセスを始めるべく共同声明を発表したのか、との問いにも答えていない。

西側の論客曰く、北朝鮮は「特異な体制の、経済的にも立ち遅れた東洋のとるにたらない小国」にすぎない。

しかし、現実はこの「とるにたらない小国」との2回目の首脳会談が現実化しており、かたくなに拒否する終戦宣言発表にも応じざるを得ない状況だ。

朝米首脳会談が、北朝鮮が圧力に屈した結果開かれたという、論理的も成り立たないポンペオ長官の主張は、北朝鮮の「国家核戦力の完成」によって根本的に変化したゲームの流れを押しとどめるための虚言に過ぎない。

米国が朝米首脳会談に踏み切ったのは、北朝鮮が戦略国家に浮上したことに対応したもので、ゲームチェンジの象徴であった。

米国のネオコン、リベラルホークなどの強硬派と追従する同盟国の保守勢力と大手マスコミは、この厳然たる事実から顔を背け、首脳会談に踏み切ったトランプ大統領を非難し、政争の具に利用している。

終戦宣言に反対し、北朝鮮の一方的な非核化を唱え、制裁強化を叫ぶポンペオ長官の主張は、なぜか強硬派の主張をなぞっている。

北朝鮮が一方的に非核化すれば「明るい未来」がもたらされるというのも、稚拙な虚言だ。

自国の安全保障をないがしろにして経済発展し明るい未来を獲得した国は、古今東西に例がない。

リビアは米国に核施設を差し出し2006年に米国と国交を樹立したが、明るい未来は訪れなかった。 カダフィ政権が2011年オバマ政権下でNATOの軍事攻撃を受け崩壊したのは周知の事実。 カダフィ大佐が「明るい未来」ではなく、悲惨な末路を迎えたのは、米国を信じて自国の安全保障をおろそかにした結果であった。

核施設を差し出すことによって、米国にとって何等の脅威でもなかったカダフィ政権を軍事攻撃で崩壊させたオバマ政権の戦争は、米国を信じ武装を解除することがいかに愚かな行為であるかを知らしめた。

経済発展も安全保障あってこそのたまものだ。 北朝鮮が経済発展のために安全保障を犠牲にすることは決してないであろう。

「明るい未来」を何度繰り返しても、北朝鮮が一方的な非核化に応じることはない。 ポンペオ長官は早く気が付いたほうが良いのではないか。

北朝鮮の李容浩外相は9月29日国連総会で演説し、「米国に対する信頼がなければわが国の安全に対する確信もなく、その状態でわわれれが一方的に核武装を解除することは絶対にあり得ない」と強調した。

また李容浩外相は、「米国は非核化が先だとの主張だけを行い、これを強圧的に実現させるため制裁をさらに強めており、終戦宣言の発表まで反対している」と述べながら「制裁でわれわれを屈服させられると考えることはわれわれを知らない者の妄想」と批判した。(M.K)

 

 

 

 

 

 

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元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。