2回目の朝米首脳会談開催に向けて、朝米間の駆け引きが激しさを増している。 朝鮮戦争の終戦宣言問題をめぐり、朝米間の和平プロセスが足踏み状態を余儀なくされているだけに、米国が終戦宣言に応じるのかかが最大の焦点になる。
米国による安全保障の提供、朝米関係の改善、朝鮮半島の非核化などが約束された6.12首脳会談が、世界に向けて、長きにわたる冷戦から平和への和平プロセス開始を告げた宣言であったとすれば、終戦宣言は和平プロセスの具体的な第一歩になる。
熱い戦争であれ冷たい戦争であれ戦争状態を維持したまま和平プロセスは始まらない。 誰の目から見ても明らかで、終戦宣言に対する姿勢は米国が本気で和平プロセスに取り組もうとしているかどうかを判断する試金石になる。
米国から「北朝鮮が核リストを提出するのが先だ」との不穏な声が聞こえてくる。北朝鮮が主権国家であることを忘却してしまったかのような傲慢な要求だが、それはさておくとしよう。
北朝鮮が米国に、不安定な休戦状態を強固な平和体制に転換することを提案したのは一度や二度ではない。それも米ソ冷戦が解消する以前から、さらに核兵器を保有する前から重ねて提案してきた。 しかし米国はこれを無視し続けてきた。 これは北朝鮮の「先非核化」を理由に終戦宣言に応じようとしない米国の主張が詭弁に過ぎないことを示している。 本コラムで重ねて指摘したように、オバマ前大統領が2015年1月に、北朝鮮崩壊のために「圧力を段階的に強める」とネットメディアに述べたことから明らかなように、北朝鮮に対する敵対政策が根本原因であると言える。
6.12朝米共同声明で米国が「安全保障の提供」を約束したことは、この敵対政策の転換を意味する。
トランプ大統領はこの趣旨に沿って終戦宣言に肯定的立場を示しており、また首脳会談直後に行った記者会見で将来的な駐韓米軍の撤退にも言及した。
にもかかわらず、米国が終戦宣言になかなか応じようとしない理由はどこにあるのか?
強硬派は駐韓米軍の地位が不安定になる、と主張しているが、文在寅韓国大統領も指摘しているように、米軍の韓国駐留は韓米同盟に基づくもので終戦宣言と直接関係しない。
終戦が宣言されれば現在の休戦体制を平和体制に変えるための和平交渉は不可避で、この過程で「休戦協定管理」の名分で存続している「国連軍司令部」は消えゆく運命にある。
米国が終戦宣言に応じようとしないのには、実は「国連軍司令部」と関連しており、その解体に反対するネオコンとペンタゴンの強硬姿勢があるのではないかと一部で指摘されている。
終戦宣言問題が焦点に浮上する中で、突如表面化しはじめた「国連軍司令部」をめぐる奇妙な動きはこの指摘に説得力を持たせている。
朝米首脳会談の直後の7月、カナダのウェイン・エア陸軍中将が「国連軍司令部」の副司令官に任命された。
米国人以外の国の軍人が「国連軍」の「司令部」に入ったのははじめてで異例の人事であった。もちろん任命したのは国連ではなく米軍だ。
このような動きについて韓国のハンギョレ新聞(2018.10.8)は次のように報じている。 「英国のフィナンシャル・タイムズ紙は最近、米国が国連軍司令部の職位を(韓米)連合司令部や在韓米軍司の幹部が兼職していた慣行から脱して、オーストラリアやニュージーランドなど国連参戦国に開放しているとし、これを国連軍司令部の『再生』(revitalization)と称した。 (韓米)連合司令部と在韓米軍の影から抜け出し、国連軍司令部を独自の軍事機構に強化しようとする流れである」
休戦協定の管理機能を失い形骸化した「国連軍司令部」を新たな軍事機構として「再生」させようとする動きが表面化したのは、実は十数年前のことだ。 去る2006年3月、当時の駐韓米軍司令官(「国連軍」司令官兼任)は上院軍事委員会聴聞会で、「国連軍」メンバー国を有事作戦計画の作成と細部活動に参加させることにより「国連軍司令部」の役割を拡大させ実質的な「多国籍連合機構」に転換させることを主張した。
先にも述べたが、カナダ人軍人を副司令官に任命するなど、「国連軍司令部」を多国籍化することは、新たな多国籍軍事機構の形成に繋がる危険な動きと言わざるを得ない。
「国連軍司令部」というのは、朝鮮戦争の勃発とともに国連安全保障理事会の決議によって設けられたとものと、西側では認識されているが実はそうではない。 米国が安保理を利用して勝手に作り上げた幽霊組織だ。
安保理では米国主導下で、1950年6月25日に北朝鮮を「侵略者」と規定する決議、7月7日には、朝鮮戦争にメンバー国の軍隊を参戦させ、その軍隊を「米軍指揮下の連合司令部」に所属させ、「国連旗を使用」するとの決議を矢継ぎ早に議決した。 さらに7月25日に「米軍指揮下の連合司令部」が国連に提出した報告書で、「連合司令部」を勝手に「国連軍司令部」に改名した。 ここで留意すべきは、「米軍指揮下の連合司令部」を「国連軍司令部」に変えたのは安保理議決によるものではないということだ。
問題は、一連の決議が安保理常任理事国であったソ連が欠席した状況で強硬されたことにあり、全常任理事国一致の原則に反していたことだ。 またソ連復帰後の1951年1月31日には6月25日に米国が上程した決議「大韓民国に対する侵略に関する提訴」を削除することについての決議を議決している。 このことは朝鮮戦争に国連が介入すること自体が過ちであることを示したものだ。
北朝鮮は「侵略者」であり、安保理が「国連軍」を派遣したというのは虚構に過ぎない。
このため、歴代の国連事務総長は「国連軍」の存在を認めていない。
「連合司令部は国連安保理が自身の統制下にある付属機構として設立したものではなく、それは米国の指揮下に置かれている」(北朝鮮外交部長に送ったガリ国連事務総長の1994年6月24日付け書簡)
米国が朝鮮戦争に派遣した軍隊と司令部について「私の前任者の中で誰も国連の名前と結びつけることをどの国にも許諾したことはない」(北朝鮮最高人民会議常任委員長に送ったアナン国連事務総長の1998年12月21日付け書簡)
「国連軍」も「国連軍司令部」も歴代の国連事務総長も認めていない幽霊であることは明らかであろう。
詳細は省くが、「国連軍司令部」は休戦協定の管理者としての機能も完全に喪失し形骸化している。
その存在自体が風前の灯となったこの幽霊を「再生」させようとするペンタゴンと強硬派の動きは明らかに終戦宣言と朝米和平への流れに逆行している。
朝米関係が停滞している原因は北朝鮮にあるのではなく、米国大統領の意向にさえ反し和平への流れを葬ろうとする強硬勢力の危険な策謀がうごめいていることを直視すべきだ。(M.K)
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