韓国の大法院(最高裁)が10月30日に日本植民地時代、日本企業に強制労働させられた「徴用工」被害者が企業に対し求めた損害賠償についての支払い命令を確定させたことが、韓国と日本の間で外交問題に発展させそうな様相を見せている。
日本政府は猛反発、安倍首相は「1965年の日韓請求権協定によって完全かつ最終的に解決している。この判決は、国際法に照らしてありえない判断だ。日本政府としては毅然として対応していく」とヒステリックな反応を示した。
マスメディアは事実関係を検証するどころか、政府の主張を一様に繰り返しながら「請求権協定で個人の請求権も解決済み」「日韓関係の根幹を揺るがしかねない」と繰り返し、国民の「嫌韓感情」を煽っている。
今回の判決は、植民地支配時の日本企業による強制労働に対し、反人道的不法行為に対する慰謝料の請求権を認めるもので、日本政府が「解決済み」とする根拠とした日韓請求権協定において、個人請求権が消滅していないと判断したもの。
韓国の大法院は、新日鉄住金(私人)に対して強制徴用被害者(私人)への損害賠償を命じた。 日本国に対し韓国への損害賠償を命じるものではない。
また、国家間請求権が消滅したとしても個人請求権までは消滅しないというのは、これまで日本政府も主張し、日本の最高裁も認めてきた。
過去の国会では「日韓請求権協定は、個人の請求権そのものを消滅させたものではない」との見解を示している。
1991年8月27日の参院予算委員会では、柳井俊二 外務省条約局長(当時。のちの外務次官)が「日韓請求権協定」第二条の意味について「両国間の請求権の問題は最終かつ完全に解決した」というのは、「日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということ」で、「いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません」と答弁している。
にも拘らず、日本政府は今回の判決内容が「日韓請求権協定という条約に反するから国際法違反だ」と言っている。 しかもあろうことか、この問題を国際司法裁判所に持ち込むことも検討しているという。 「私対私」の問題を「意図的」に「国対国」の争いにしようとしているフシがある。 あまりにも無謀だ。
「先進国」では憲法に違反する条約は無効であるとの定めがあり、憲法は条約より優先される。
また、国民と国は権利義務主体として法的に別人格になり、国が国民の請求権を放棄したりできない。
「日韓請求権協定」においても、日本からの「援助」と引き換えに放棄されたのはあくまで韓国の国家請求権で、国民の日本企業に対する損害賠償請求権は別。 「日韓請求権協定」で被害者の請求権が放棄されたという解釈が無理であり、これを国際司法裁判所に持ち込んだら日本は恥の上塗りだろう。
日本政府とマスメディアは「国家間の約束を反故にするとは何事か」と噛みつくが、事の本質を歪曲、隠蔽している。 懸念されるのは、マスメディアに踊らされた「普通の人々」が「オールニッポン」となって「日韓関係の悪化が懸念される」「経済的影響は計り知れない」、挙句には「我々としてはもう立ち向かうしかない」「韓国は法治国家ではない」など「嫌韓」的空気感を形成していることだ。
根底には、現在に至ってもなお「宗主国」たらんとする「大日本帝国的差別意識」が潜在しており、その根深さが深刻だということを、今回の事態は浮かび上がらせている。
日本が過去に朝鮮半島を植民地化したことは逃れられぬ事実であり、その際の非人道行為に関係する日本企業に対し、被害者が賠償を求めるのは当然の権利だ。 「不都合な真実」と真摯に向き合う以外、日本が「過去の呪縛」から解き放たれる方法はない。(Ψ)
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