M.K通信 (16)一匹のドジョウ

北朝鮮が申告していないミサイル基地と推定される20か所の施設のうち、少なくとも13か所の場所などを特定したとする米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)の発表と、これを報じたニュヨークタイムズ(NYT)紙の記事(12日付け)が大きな波紋を起こしている。

CSISの報告とNYT紙の報道が波紋を起こしているというよりも、韓国青瓦台(大統領府)の金宜謙報道官が、翌日の13日に行った定例会見で、報告と報道が虚構に満ちたものであることを明瞭に指摘したことが大きな波紋を呼んでいるというのが正しかろう。

CSIS報告とNYT紙の報道の核心は、北朝鮮南西部の黄海北道サッカンモルにあるミサイル基地を「隠れた北朝鮮ミサイル基地」とし、ICBM、中距離ミサイル開発を続けている根拠に挙げるだけではなく、北朝鮮はミサイル基地の廃棄約束を守っておらず、「巨大な欺瞞戦術(great deception)を使っている」としていることだ。

金宜謙報道官は、▲サッカンモルにあるミサイル基地は数年前から把握、監視している単距離ミサイル基地で、ICBM、中距離ミサイル開発と関係ない▲「北がこのミサイル基地を廃棄すると約束したことはなく、当該基地の廃棄を義務付けるいかなる協定も結んだことはな」く、北朝鮮が「巨大な欺瞞戦術(great deception)を使っている」との指摘は当たらないと、指摘した。 ▲またCSISが「未申告」などの表現を用いていることに関しても、「申告をしなければならない協約も、交渉も存在しない。申告を受ける主体もない」と指摘している。

金宜謙報道官は、定例会見でこの問題を取り上げた動機について、「朝米対話が必要な時期に『未申告』『ごまかし』といった言葉がともすれば誤解を招きかねず、交渉の実現を阻害しかねないため申し上げた」と説明している。

この指摘だけをもってしても、CSISの報告とNYT紙の報道がでっち上げによるフェイクニュースに過ぎないことは明らかだ。 事実、CSISの報告書を作文しNYT紙と組んで今回のでっち上げ報道を仕掛けた張本人であるビクター・チャ韓国部長は、金宜謙報道官の指摘に当惑、何一つ具体的に反論できず、「韓国がどのように北朝鮮の非公開ミサイル基地を弁護することができるか」と逆切れしている。 まるで泥棒が家の主人に向かって泥棒と叫ぶような愚かな行為だ。

NYT紙が朝米交渉を「自らの外交的成果だとするドナルド・トランプ大統領の主張に反している」と指摘していることは、今回のでっち上げ報道の政治的目的を如実に示している。 朝米交渉が膠着状態にあるタイミングで、北朝鮮の「約束違反」をでっち上げることにより朝米交渉を視界不良に追い込み、反トランプキャンペーンに利用することにあるのは明らかだ。

NYT紙、ワシントンポスト紙などの米大手メディアが、北朝鮮問題と関連してでっち上げ報道を行ったのは一度や二度ではなく別に驚くに当たらないが、日本の朝日新聞が、韓国青瓦台報道官が否定した後に、NYT紙のでっち上げ報道をコピーしたのはどう見ても意図的で、違和感を禁じ得ない。 まるで嘘も方便と言わんばかりで、米大手紙同様に政治的目的のためにはでっち上げも辞さないとの姿勢を示したものとしか受け取れない。

ビクター・チャ韓国部長は、去る6月の朝米首脳会談を前に問題になったCVID(完全で検証可能かつ不可逆的な非核化)を造語した張本人。 ブッシュ政権下で国家安全保障会議(NSC)アジア部長を務め、ネオコンの強硬路線に従い北朝鮮政権の崩壊を目的にした、CVIDを原則にした「強硬関与」を理論家した強硬派でもともと融和路線には否定的であった。(参照:M.K通信(2)強硬関与とCVID) またトランプ政権下で駐韓米大使に内定したとされたが、後に取り消されており、トランプ大統領に対する反感が強い。

ビクター・チャ韓国部長の北朝鮮に対する強硬志向と反トランプ感情が、CSISのぬいぐるみを着た稚拙なでっち上げ報告書を生んだと言ってもよかろう。

「一匹のドジョウが池の水を全部濁らす」とは朝鮮半島に伝わる諺だ。

民主党強硬派の意を汲み反トランプ勢力の急先鋒を務めるNYT紙を通じて、北朝鮮を貶め反トランプキャンペーンと結びつけるビクター・チャ韓国部長の行動は、反トランプの大元締めであるリベラルホークに操られる一匹のドジョウのようだ。 池の底で暴れ泥を巻き上げて水を濁らせ視界不良にしてみても、やがて泥は沈殿し視界は開ける。 ましてやその泥が歪曲と誇張に彩られたでっち上げであるならなおさらだ。

この類のでっち上げは、朝米首脳会談直後から朝米交渉に反対する強硬派によって繰り返されてきた。

一例を上げれば、朝米首脳会談から一か月過ぎた7月13日に米国の外交専門誌「ディプロマット」が報じた「カンソン・ウラン濃縮施設」なるものだ。 また米ワシントンポスト紙もこれに先立つ6月30日「米情報当局はカンソンの秘密ウラン濃縮施設について把握しており、ここで濃縮される核兵器クラスのウランは寧辺における生産量の2倍に達する」と報じた。 この報道によれば、情報源は、「情報当局」とだけ表現され極めて抽象的で、物証はウラン濃縮施設であることを確認することができない衛星写真、これに「ヒューミントによる確認」ともっともらしい解説もついてきた。 これはでっち上げ情報にいかに信ぴょう性を付与するかに苦心した痕跡だった。

この情報がデマであることは、北朝鮮の祖国平和統一委員会のウェブサイト「わが民族同士」が7月17日に掲載した論評で、「根も葉もないデマ」と指摘したことで明らかになった。 もっとも、「わが民族同士」の指摘をまつまでもなく、北朝鮮について多少でも知る専門家は、衛星写真の建物が製鋼関連の工場であることを知っていた。 なぜならこの工場は北朝鮮メディアによってすでに公開されていたためである。

このでっち上げ情報をコーディネイトした人物は、「米ジェームズ・マーティン不拡散研究センターのジェフリー・ルイス」なる人物。朝米首脳会談以前から口を極めてトランプ大統領を非難していた人物だ。(参照: 「専門家の個人的主張」に振り回されるメディア

このようなでっち上げ情報、米大手紙によるでっち上げ報道は枚挙にいとまがない。 でっち上げ情報には泥を巻き上げるドジョウがつきものだ。 大小のドジョウを暴れさせ、朝米交渉の視界を妨げようとする米大手マスコミを信じるべきではない。 なぜなら彼らは政治的目的のためにはでっち上げをいとわないからだ。(M.K

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元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。