「そう、アレッポ近隣の一部ホムス、ダマスカスの郊外には、瓦礫が、実際全くの破壊がある。
そう、国の一部に、イドリブや、いくつかのより小さな地域に、テロリストや『外国勢力』がいる。
そう、何十万もの人々が生命を失い、何百万人もが難民にされたり国内難民になったりしている。
だがシリアの国はしっかり存在している。 リビアやイラクがそうなったようには、シリアは崩壊しなかった。 シリアは決して降伏しなかった。 シリアは降伏を決して選択と考えさえしなかった。 シリアは砲火や想像できない痛みで、大変な苦痛を味わったが、結局勝った。
・・・
シリアは勝っており、望むらくは、中東で、再び同じことにはなるまい。 アラブ人の屈辱の長い数十年は終わりだ。 今『近隣の』皆が見守っている。 今皆が知っている。 欧米とその同盟国とは戦い、止めることができるのだ。 彼らは無敵ではない。 極めて残忍で無情だが、無敵ではない。 同じく、最も邪悪な原理主義の宗教的な植えつけは打ち壊すことができる。」
ロシア人作家・調査ジャーナリストでもあるアンドレ・ヴルチェク氏のルポルタージュの一説だ。(「New Eastern Outlook」2018年11月12日。URL:https://journal-neo.org/2018/12/11/in-syria-the-entire-nation-mobilized-and-won/ 訳文:http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2018/12/post-ba8a.html「国全体を動員して、勝利したシリア」)
欧米の支持を受けた反体制武装勢力がアサド政権軍に敗北し、イドリブに押し込まれた後にシリア入りして取材、執筆された力作だ。
アンドレ・ヴルチェク氏は、欧米は無敵ではない、シリアは大変な苦痛を乗り越え勝利したと力説したが、シリアの勝利は、トランプ大統領がシリアからの米軍撤退を発表(2018.12.19)したことで確定的になった。
マティス国防長官の辞任、リベラルの皮を被った民主党タカ派などの激しい反対にもかかわらずトランプ大統領の意思は固いように見える。
今年1月16日には、シリア北部の要衝マンビジュで米兵が死亡するISによるテロ事件が発生したと伝えられた。 すでに壊滅したとされるISの残党にとっても米軍撤退はIS復活のためには歓迎すべきことであることは小学生でも判断できる。 にもかわらずISが米軍撤退に冷水を浴びせる自爆テロ事件を起こしたというから実に摩訶不思議なことだ。 反トランプ勢力とマスコミがこの事件を米軍撤退を非難するキャンペーンに利用していることは言うまでもない。 動機だけからみれば、米軍撤退に反対する反トランプ勢力を利する奇怪な事件である。
いずれにせよ、トランプ大統領は様々な反対キャンペーンにもかかわらず、「米国は世界の警察であり続けることはできない」と、シリアからの米軍撤退を貫く姿勢を崩していない。
シリアでの内戦はオバマ政権によって仕組まれ2011年に始まった。 欧米から資金と武器を供与され、米軍の訓練を受けた反政府武装勢力は内戦ぼっ発時にはシリア国土の半分以上を支配したが、アサド政権軍の反撃によって徐々に支配地域を失い、オバマ政権末期には「アサド政権打倒」の目標は不可能になっていた。
またISが駆逐されたことで米軍駐留の名分がなくなり、欧米が支援した反政府武装勢力がイドリブに押し込まれ反転不能となったことで米国がシリアに介入し続ける利もなくなった。 トランプ大統領からすれば、オバマ政権が起こした、敗北した戦争の後始末に過ぎないのではないか。 シリアで失敗した介入を収拾するのはトランプ政権ではなくとも避けて通れない課題であり、シリアからの米軍撤退をめぐる争いはただの政争のように見える。
シリアからの米軍撤退はすでに始まっており、アフガニスタンからの米軍撤退も現実化している。
タリバンとの対話に踏み切ったトランプ政権は、1月23日に約1万4千人にのぼる駐留米軍の完全撤退方針を伝えたと報道されている。
ブッシュ政権によって2001年に始まった戦争は、政権から追われたタリバンの反撃で泥沼に陥っていた。オバマ前大統領はアフガニスタンからの米軍撤退を公約に掲げたが実現できず、米軍を増派したがタリバンを掃討するどころか強力な反撃を招き混迷の度合いを深めていた。
トランプ大統領は以前から「何千億ドルも使い、戦うべきでない所で米軍は戦っている」「米国は世界の警察であり続けることはできない」などと述べ、シリアだけでなくアフガニスタンからの米軍撤退意思を示してきた。 シリアとアフガニスタンからの米軍撤退は、大統領選挙当時から指摘されてきたが、トランプ大統領は昨年の朝米首脳会談直後の記者会見で朝鮮半島からの米軍撤退意思も示した。
オバマ政権は、リビアでカダフィ政権を倒し、アフガニスタンに増派し、シリアでは内戦を仕掛け、ウクライナではカラー革命という名のクーデターを起こした。 しかし、カダフィ亡き後のリビアでは内戦が勃発、ウクライナではロシアの反撃を招き、シリアでは敗退し、アフガニスタンではタリバンの攻勢を招いた。 このような状況でオバマ前大統領も世界の警察の役割を縮小せざるを得ないと述べるに至っていたことは周知の事実だ。
「米国は世界の警察であり続けることはできない」とは、トランプ大統領が突然言い出したことではない。 世界に対する一極支配を続けることができなくなった米国の衰退の結果だ。
「欧米は無敵ではない」
すでにシリアとアフガニスタンで証明されつつある。
朝鮮半島でも「欧米は無敵ではない」ことが遠からず証明されることになろう。(M.K)
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