M.K通信 (20)終戦宣言と「国連軍」

2月末に開かれることになった第2回朝米首脳会談で、膠着状態におちいっていた朝米両国の和平交渉が大きく動き出す可能性が高まっている。

というのも、スティーブン・ビーガン米国北朝鮮担当特別代表が去る1月31日(現地時間)カリフォルニア州スタンフォード大学での講演で、朝米膠着の原因になっていた「一方的な北非核化論」を大きく後退させ、相応の措置を求める北朝鮮の要求を大幅に受け入れる方針を明確に示したからだ。

ビーガン特別代表の講演で最も注目されるのは、「ドナルド・トランプ大統領は、朝鮮戦争を終える準備が整った」と指摘し、終戦宣言に意欲を示したことだ。 朝鮮戦争を終わらせることは、朝米の敵対関係を終わらせることと同義語だ。 トランプ大統領は昨年の6.12朝米首脳会談で終戦宣言発表を約束していたが、実務交渉を率いたポンペオ国務長官は「北朝鮮の非核化が先だ」と引き延ばしてきた経緯がある。 第2回首脳会談を控えて米国側から肯定的な姿勢が示されたことは、終戦宣言がこれ以上避けて通れない課題に浮上していることを示している。

またビーガン特別代表は講演で、北朝鮮が強く要求する制裁解除について、「我々は、北朝鮮がすべてを終えるまで何もしないとは言っていない」と指摘、柔軟に対応する姿勢を示した。 さらにビーガン特別代表は講演後の質疑応答で、「相手がすべてを先に実行したら、我々もそれに応じて何をすべきかを考えるというふうに解釈されてきた」が「それは我々の政策ではない」と述べ、「先非核化論」を後退させ、北朝鮮側が主張する同時的、段階的解決に歩み寄る姿勢を鮮明にしたのである。

ビーガン特別代表が示したこのような姿勢は、朝米間の膠着状態を打開し、朝米関係の改善と朝鮮半島の非核化を進める転機になると見られる。

米国が一方的な非核化要求に固執し朝米交渉が膠着状態におちいっていた昨年の12月20日、北朝鮮側は朝米対話を舞台裏で支える専門家チョンヒョン氏の論評を朝鮮中央通信を通じて公表した。 チョンヒョン氏は論評で、朝鮮半島とは共和国と米国の核兵器をはじめとする武力が展開されている南朝鮮地域を包括しており、朝鮮半島の非核化とは北と南の領域だけでなく、朝鮮半島を照準に定める周辺からすべての核の脅威の要因を除去すること、との見解を示しながら、核兵器の生産中断宣言、核実験場の閉鎖等々、北朝鮮が先行して実行した非核措置に対する「相応の措置」について次のように指摘した。

「対朝鮮敵視政策の終息と不当な制裁措置の解除など事実上米国が決心すれば指ひとつ動かさなくてもできることを実行せよということだ」

北朝鮮の核兵器が朝米間の敵対的対立が生んだ産物であることを考えれば、北側が非核化を約束し核実験場閉鎖などの、先行して行った非核化措置に、米国が敵対関係終息への意思を示して答えるべきだとの、北朝鮮の要求に無理はないように見える。

第2回首脳会談が設定されている中で、事前の交渉を担当するビーガン特別代表が、戦争を終わらせる準備ができているばかりか、制裁解除にも柔軟に対応するとの姿勢を示したことは首脳会談の成功に向けたトランプ大統領の強い意欲を反映したものとみられる。

2月27、28日にベトナムで開かれることになった首脳会談での最大の焦点の一つは朝鮮戦争の終結宣言になると思われる。 一部では朝米に中韓の首脳が加わり終戦宣言が発表されるのではないかとの憶測が流れているが定かではない。

しかし、ベトナムでの首脳会談で終戦宣言が取り上げられることは避けられず、両首脳がいかなる形であれ戦争の終わりに合意すれば、それ自体が朝米敵対関係の終息を意味し、平和体制に向けた交渉の始まりになる。

朝鮮戦争の終戦が持つ意味はとてつもなく大きい。朝鮮戦争と休戦協定によって作られた現在の秩序を根本的に変えることになるからだ。

朝鮮戦争が終わればまず「国連軍」は解体されなければならない。 といっても「国連軍」の実態は米軍で、「朝鮮国連軍」とは米軍主導の多国籍軍に勝手に被せた帽子に過ぎず、安保理決議によるものではない。

朝日新聞は1月14日に掲載した「朝鮮国連軍改革 米の思惑」なる記事で「朝鮮戦争時に国連安全保障理事会決議で創設された朝鮮国連軍・・・」と報じているが、朝鮮国連軍創設に関する安保理決議なるものは存在しない。 同紙はこの記事で朝米和平に反対する軍産タカ派を代弁しているが、「朝鮮国連軍」が安保理決議によるものであるかのような報道は、意図的な歪曲か無知の所産だ。 「朝鮮国連軍」に関する何等の決議もないことは、ガリ、アナン前事務総長も確認している。 この点については「M.K通信 (14)試金石」で詳しく解説しているので参照にされたい。

朝鮮戦争は北朝鮮と国連の戦争ではなく、朝米間の戦争だ。 和平交渉が朝米間で行われるのもこのためだ。

朝米の和平交渉が進めば、休戦ライン管理している「国連軍」は消滅することになり、韓米同盟の存続いかんにかかわらず、軍事境界線は南北の手に委ねられることになり、民族の意思によって管理されることになろう。

第2回朝米首脳会談が朝米の敵対関係を解消し、関係改善と朝鮮半島の非核化を軌道に乗せる大きな転機になることを願う。(M.K)

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元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。