M.K通信 (21)制裁は敵対行為だ

第2回朝米首脳会談を控え、北朝鮮が強く要求する「制裁解除」に米国がどう答えるのか? 今月末にベトナムのハノイで開かれる第2回朝米首脳会談での焦点の一つだ。

米国が、昨年の6.12首脳会談後の実務協議で、北朝鮮が「強盗のような要求」と非難した一方的な非核化要求を掲げ、制裁をテコにこの不当な要求を呑ませようと圧力をかけ続けたことは周知の事実だ。 特に米国の実務チームを率いたポンペオ国務長官は、「北朝鮮に対する制裁の実行こそ非核化の核心」と公言してはばからず、制裁の強化に奔走した。 米国のこのような姿勢が朝米交渉を膠着させたことは誰も否定できない。

これに対し北朝鮮側は、朝米間の敵対関係を解消し、制裁を解除することを強く求めてきた。 第2回朝米首脳会談でどう話し合われるのか注目されるところだ。

米国による北朝鮮に対する制裁は、朝米敵対の産物だ。

核問題をめぐる米主導による国連安保理の制裁は、何らの合理的な理由もなく、ただただ米国の北朝鮮に対する敵視政策、圧力政策の手段として一方的に強行されてきたものだ。 制裁を正当化する国際法的根拠もなければ取り決めもない。 北朝鮮は合法的にNPTから脱退しており、NPT非加盟のインドと同様にNPTを遵守する義務はない。 ミサイル問題も同様で米国など世界のどの国も北朝鮮のミサイル開発中断を強制する権利を持っていない。 にもかかわらず、米国は安保理で制裁決議を強行し、「安保理決議違反」を口実に制裁を重ねてきたのが実態だ。

北朝鮮が米国の度重なる制裁について「われわれの尊厳と体制に対する露骨的な挑戦、否定であり、戦争に等しい敵対行為」と激しく非難しているのは当然のことだ。

北朝鮮当局が重ねて表明しているように核・ミサイル開発は合法的な主権国家の生存権を脅かす米国の核の脅威から国を守るための自衛権の行使だ。 自衛権の行使は国際的に認められている権利だ。

米国が北朝鮮に加えてきた核の脅威は想像を絶する。 ブッシュ政権は北朝鮮に対し、「核先制攻撃を辞さない」と公言し、オバマ政権は三大戦略兵器をすべて動員して核恫喝を繰り返した。(「M.K通信 (15)核の脅威」参照)

朝鮮半島の核問題は、北朝鮮の核兵器開発によって生じた問題ではない。 米国によってもたらされた問題だ。 本来非核地帯であった朝鮮半島に、北朝鮮が核開発の着手するはるか以前に米国が核兵器を持ち込んだことによって生じた問題だ。 にもかかわらず、朝鮮半島核問題の責任が北朝鮮にあるかのごとく歪曲して制裁が繰り返されて来た。 言語道断と言わざるを得ず、制裁が米国の対北朝鮮敵視政策に基づく敵対行為であることは明らかだ。

北朝鮮は、昨年のシンガポール首脳会談に続く2月末の第2回朝米首脳会談を前に米国が対朝鮮敵視政策を転換し制裁を解除することを強く求めている。 シンガポール首脳会談を前後して北朝鮮が核兵器の生産と実験の中止、非拡散を宣言し地下核実験施設を破壊、さらにはミサイル実験も凍結、長距離ミサイルのエンジン実験施設を解体するなどの非核化措置を先行させたことにより、米国が敵視政策と制裁を維持する理由がなくなったからだ。

米国は制裁解除に対する北朝鮮の求めにどう対応するのか? 朝米共同声明と和平プロセスにかかわる米国の真意を見定める踏み絵になろう。

第2回朝米首脳会談を前に、一部人道支援にかかわる制裁を解除するとの報道が相次いだ。 しかし韓国の人道支援団体は、まるで「シャイロック判決」のように実際に人道支援を行うことは不可能だと告発している。 「シャイロック判決」とは、シェイクスピアの戯曲『ベニスの商人』に出てくる、事業家アントニオにお金を貸したシャイロックの裁判に関する話だ。 ユダヤ人の金貸しのシャイロックから多額の金を借りたアントニオは、金を返せなければ自分の心臓に最も近い肉を切り取らせると約束した。 突然破産したアントニオは、借金を返せなくなったが、裁判官は「肉を切り取ってもよいが、血を流させてはならない」という判決を下し危機を免れた。

ハンギョレ新聞(2.10)によれば、昨年12月21日にインフルエンザの拡散を防ぐためにタミフルを支援することが了承されたが、タミフルを輸送するトラックはだめだという理由で、実際にはタミフル支援は実行されていないという。 一事が万事で他の人道支援物資も「シャイロック判決」の論理で不可能だという。

稚拙で姑息だ。 「超大国」が聞いてあきれる。 笑止千万である。

米国が制裁解除に応じないばかりか、姑息な手法で人道支援の道までも閉ざしている状況では、朝米間の信頼関係が築けるはずもなく、非核化は一歩も進むまい。

朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は昨年10月4日付論評で、制裁問題について次のように指摘した。

「・・・非核化は信頼構築を養分にして育つ朝米関係改善という木に成る果実だ。 信頼構築と関係改善を無視して一方的に非核化措置を要求することは田畑を耕さないで収穫することと変わらない。

『制裁』が米国に対するわれわれの不信を増大させる根本要因のひとつであることは二言を要しない。

相手に対する尊重は眼中にもなく『制裁維持』のような不用意な発言で刺激し信頼醸成を害するならその結果は火を見るより明らかだ」

今一度強調するが制裁は敵対行為であり、制裁の維持、強化を唱える姿からは、朝米関係の改善、平和体制の構築、朝鮮半島非核化に臨む米国の真剣な姿勢が見えてこない。(M.K)

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元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。