ベトナムのハノイで行われた2回目の朝米首脳会談が「合意不発」で終わりメディアは「決裂」だと騒いだが、「会談で議論された問題解決のための対話を続けていくことにした」と朝鮮中央通信が伝えたように、朝鮮とアメリカは交渉の「継続」で一致を見た。
首脳会談では当初、「新しい朝米関係」へと踏み出す画期的な合意文が発表されるものと目されていたが合意には至らなかった。 アメリカ側が合意書への署名を躊躇ったからに他ならない。
トランプ大統領は28日の記者会見で、合意を見送った理由について朝鮮が「すべての制裁の解除」を要求したからだと述べたが、それは事実ではない。
実際には朝鮮側はUN制裁の一部解除=「民需経済と人民生活に支障をきたす一部項目の解除」を求めた。 李容浩外相が深夜の記者会見で、アメリカ側の主張に反駁する形で明かしている。
朝鮮側は「寧辺地区のプルトニウムとウラニウムを含めた全ての核物質生産施設を、米国の専門家らの立会いの下、両国の技術者の共同作業で永久的に完全に廃棄する」旨をアメリカ側に提起、「これは、朝米両国間の現信頼水準を見た場合、現段階において我々が出し得る最も大きな歩幅の非核化措置だ。 我々が非核化措置を取って行くなかでより重要な問題は本来安全担保問題だが、米国がまだ軍事分野の措置を取ることが負担であろうと見て、部分的制裁解除を相応措置として提起した」(李外相)と明かした。
これに関しては、普段は100%米国の味方だといえるAP通信でさえも朝鮮側の言い分が正しいと報じている。
今回の首脳会談では、シンガポールで示された「新しい朝米関係」樹立に向けた、具体的行動措置の合意がなされるはずだった。
「ハノイ合意文書」の草案として伝わってくる内容によると、① 朝鮮と米国は朝鮮戦争を終わらせる平和宣言を採択する。朝鮮は戦争中に死亡して朝鮮の領土に埋もれている米軍遺骨を追加で発掘し米国に送還する。②朝鮮と米国は関係正常化の最初の措置として、自国の首都にそれぞれ連絡事務所を設置する。③朝鮮は寧辺核施設を停止し、米国はそれに相応して、UN安全保障理事会の対朝鮮制裁措置のうち、南北経済協力に関連する制裁措置を解除するーとなっている。
寧辺核施設を廃棄する朝鮮に対して米国が制裁の一部解除で応えるのは現実的な措置だ。 しかし、トランプ大統領は自己保身のあまり「朝鮮側の過度な要求に決して譲歩しない」という小手先のイメージ作りに走ってしまった。
大統領を包囲する米国内の反トランプ勢力や対朝鮮強硬派の抵抗は激しく、民主党が元顧問弁護士の公聴会を朝米首脳会談にぶつけて議会証言をさせメディアが大々的に取り上げるなど、米国内で広がる政治スキャンダルは大統領に強烈なプレッシャーを与えただろう。
実際、トランプ大統領は3日自身のTwitterで「朝鮮民主主義人民共和国との非常に重要な核サミットと同時に、民主党が公聴会で、有罪判決を受けた嘘つき・詐欺師にインタビューしたのは、おそらくアメリカの政治の新たな低水準であり、そして「散歩」に貢献したかもしれない。 大統領が海外にいる時にやったことが無い。 恥!」と語り、図らずも「合意ドタキャン」の本音を自ら晒している。
さらに「偏執的壊し屋」のねじ込みも加わった。
ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が拡大会談の土壇場に登場、朝鮮側に対し、核兵器だけでなく保有する生物・化学兵器についても報告義務を課すと言い出したのだ。 核保有国同士の対等な交渉ではなく、事実上の「一方的降伏宣言」を強要しようとし、トランプ大統領はそれを黙認した。
朝鮮側は「我々の原則的立場には微塵の変化もないだろうし、これから米国側が協商をまた再開してくる場合にも、我々の方案には変化がないだろう」とし交渉継続の余地を残したが、今回の一連の顛末で、トランプ大統領は朝鮮からの「信頼」を少なからず損なう形となった。
崔善姫外務次官が記者会見で「米国は千載一遇の機会を逃したのと同じだ」「国務委員長同志が、これからの朝米交渉に対し少し意欲を失ったのではないかという感じを私は受けた。 首脳会談を傍らで見ながら、国務委員長同志が、米国が用いる米国式計算法に対し、少し理解しがたい、理解がいかないとする、そんな感じを受けた」と語ったことがそれを示唆している。
しかし、金正恩国務委員長は会談のテーブルを蹴って立ち去らず、大統領と笑顔で別れの挨拶を交わす度量を見せた。 トランプ大統領が抱えた「事情」を察したのだ。
朝米交渉は続く。
美辞麗句も修飾語も要らない。 必要なのは「新しい朝米関係樹立」への揺るがぬ決意と覚悟、それに伴う行動だ。 「信頼」を取り戻せるかは大統領自身にかかっている。(Ψ)
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