経済制裁をレバレッジと考え北朝鮮に一方的な武装解除を強制しようとする、ボルトン補佐官のようなネオコンの強硬論は愚かだ。 制裁こそ「北朝鮮非核化の核心」と言ってはばからないポンペオ長官も同様で、北朝鮮はハノイ会談を決裂させたのはこの両氏の強硬論だと非難している。
米国の行動を見るとどうも北朝鮮に核兵器を放棄すれば経済発展の道が開けると思わせることが有効だと本気で考えている節がある。 経済制裁で痛みを与えれば北朝鮮は「屈服」するだろうと思っているようだ。
愚かなのか? または他に方法がなく経済制裁にしがみつくのか? おそらく両方だ。
不動産取引などの商取引において、該当するディールにおける相手の利を解くことは取引に有効に作用することもあろう。 北朝鮮が核兵器を開発したのは、米国の核の脅威から国家と民族を守るためだ。 一義的に安全保障の問題であり、経済は二義的だ。 核兵器を放棄すれば経済発展への道を開くことができる?安全保障は経済建設の担保であり、武装解除は体制崩壊にほかならない。 小学生も理解できることだ。
安全保障と経済発展を天秤にかけ択一を迫る愚かしい論理で、北朝鮮を武装解除に追い込むことができると考えているとすれば滑稽に過ぎる。 米国がハノイ会談で持ち出した、制裁解除と全面的な北朝鮮非核化を取引する「ビッグディール」なる提案こそが、この愚かしい考えに基づいたものだ。 ロイター(3月29日)電によればこの「ビッグディール」の中身はシンガポール首脳会談の前からボルトン補佐官が主張していた「リビア方式」に他ならない。 ロイターは、米国はこれを文書にして北朝鮮に渡したと伝えながら、「ボルトン氏が当初から求めていたもので、うまくいかないのは明確だ。 米国が(北朝鮮との)協議に真剣なら取るべき手段でないと学んでしかるべきだった」との、ワシントンのシンクタンク、スティムソン・センターの北朝鮮問題専門家であるジェニー・タウン氏のコメントを紹介した。
「リビア方式」は一度はトランプ大統領によって否定された方式だが、ポンペオ長官とボルトン補佐官の進言によってハノイで再び持ち出されたわけだ。 米国が「リビア方式」を再び持ち出した理由は、ハノイ会談を控えた2月21日に放送されたポンペオ長官の「FOXビジネス・ネットワーク」とのインタビューを見ればよく分かる。
本コラムですでに紹介したが、ポンペオ長官はこのインタビューで、北朝鮮の非核化を「ベルリンの壁」の崩壊に喩えて説明、「私はこれまで我々がしてきたこと、我々が加えた経済制裁、トランプ大統領らが導いた交渉によって、世界が1989年に目撃したような瞬間を私たち皆が迎えられると期待している」と述べている。 米国が朝米交渉の目的を北朝鮮の崩壊に定めているとすれば、ハノイ会談で「リビア方式」を持ち出したのは当然なことで、経済制裁が北朝鮮の崩壊を促進するレバレッジになると考えているようだ。
実に愚かな妄想に過ぎない。 超大国の外交を司る国務長官が1989年のような「奇跡」を北朝鮮に「期待」するのは米国の劣化を示すものなのか?
北朝鮮の指導部は、1968年に領海を侵犯したプエブロ号を拿捕し、「報復には報復で、全面戦争には全面戦争で!」のスローガンを掲げて米国と対決した伝統を受け継ぎ、一昨年には米国のあらゆる圧力をはねのけ、ICBMと水爆を兼ね備えた「国家核戦力」を完成させた指導部で、米ソ会談の結果自らソ連邦を解体させた軟弱な指導者とは異なる。 また北朝鮮はソ連と運命を共にした東ドイツでもなければ東欧の社会主義国家でもない。 さらに米国の脅しに屈して大量破壊兵器を自ら廃棄し軍事侵略になすすべもなく倒れたフセイン政権でもなければ、米国を信じて武装解除し倒されたカダフィ政権でもない。 これは朝米対決の70年の歴史がすでに証明している。
米国が経済制裁をレバレッジと唱えしがみつくのは、露骨に言えば他に北朝鮮を崩壊させる手段がないからだ。 北朝鮮には「ベネズエラのグアイド」は存在しない。 またリビアで米国の資金と武器で内戦を起こした反体制派が存在するわけでもない。 存在すると言えば、CIAの関与が疑われている、スペインの北朝鮮大使館に対してテロ行為を働いたごろつきがせいぜいだろう。 米国は北朝鮮内部に何らのレバレッジを持たないばかりか、米国本土への核攻撃のリスクを抱える軍事行動にも踏み切れないだろう。
唯一残る手段が経済制裁ということだ。 しかし制裁と圧力の中で「国家核戦力」を完成させたことからも見て取れるように、制裁はレバレッジたり得ない。
米国が「リビア方式」に固執すれば朝米交渉は成り立たず、北朝鮮は間違いなく「新たな道」を模索することになる。
「明白にしておくが、今のような米国の強盗的立場は事態を明らかに危険にするものだ。 我々は米国といかなる妥協もするつもりはないし、今回のような交渉は尚更行う意欲も計画もない。」すでに報じられているが、この発言は3月15日に記者会見を行った崔善姫外務次官の発言だ。
北朝鮮が好むと好まざるとにかかわらず、新たに模索する道の中心に核抑止力の強化が据えられることは避けようがない。
経済制裁が北朝鮮崩壊へのレバレッジたり得るのか? それとも北朝鮮の核抑止力が朝鮮半島平和へのレバレッジなのか? 答えは明白だ。
時間は北朝鮮の核抑止のレバレッジを倍増させ、核保有を規制の事実にするだけだ。(M.K)
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