米国が反対していた文在寅政権による北朝鮮への人道支援を認めざるを得なくなったようだ。 また韓国企業関係者の開城工業団地訪問もこれ以上止めることができなくなった。
5月17日韓国の統一部は①国連世界食糧計画(WFP)と国連児童基金(ユニセフ)による北朝鮮の乳幼児や妊産婦への栄養支援、母子保健事業など、国際機関の対北朝鮮支援事業に800万ドルの供与を推進する②開城工業団地の韓国企業関係者が施設点検のために申請した訪朝を承認するーと発表した。
800万ドルの人道支援は文在寅政権が2017年9月に決め発表した案件だ。 それが今まで実現しなかったのは米国が反対したためだ。 韓国の統一部が昨年10月、国会業務報告を契機に「800万ドル供与推進」を発表しようとしたが、米国の壁に直面したと伝えられている。 さらに昨年12月、米国はインフルエンザの拡散を防ぐためのタミフル支援を了承しておきながら、タミフルを輸送するトラックは制裁違反に当たるとの姑息な論理を駆使してまでタミフル支援を阻止した。
また韓国政府は昨年10月末、開城工業団地入居企業家の資産点検のための訪朝申請を許可しようとしたが、米国の反対で挫折したという。
文在寅政権の人道支援と開城工業団地訪問をストップさせたのは、韓米ワーキンググループだ。 ワーキンググループは昨年10月20日、ワシントンで第一回会議を開き発足した。 ワーキンググループ発足の背景には、南北の軍事合意、南北鉄道の連結などの南北合意による協力事業に対する米国の危機感があった。 米国が「北朝鮮の非核化と南北協力の速度を調節」しなければならないとの「速度調整論」を掲げながら、文在寅政権の南北協力事業を統制するために作った機構だ。 ワシントン外交界では、米国務省が発表した「ワーキンググループ」とは「事実上、韓国政府が単独で南北事業を決められないように事前にふるいをかける安全弁」という解釈している(中央日報2019.10.31)という。 韓米ワーキンググループが、米国が文在寅政権の南北合意の履行を「取り締まる機構」(ハンギョレ新聞5.15)であることを示すものだ。
米国が南北協力を「取り締まる」目的は、「史上最強の制裁」を維持、強化して北朝鮮を屈服させることにある。 反対しずらいタミフル支援は許すとしながら輸送手段は制裁違反だとする姑息な論理まで駆使しながら文在寅政権による一切の人道支援を妨害し、間違っても開城工業団地や金剛山観光の再開、南北鉄道連結などの協力事業が一歩も進まないように統制してきたのはこのためだ。
しかしここにきて文在寅政権の人道支援と開城工業団地訪問を許容せざるを得なくなった。 「北朝鮮に対する制裁の実行こそ非核化の核心」と公言しワーキンググループを発足させた張本人であるポンペオ国務長官、ボルトン補佐官の制裁万能論が綻びはじめたことを意味する。
去る5月4日、北朝鮮が火力打撃訓練を行った直後に開かれた韓米首脳会談で、トランプ大統領が文在寅政権の人道支援提案を支持した。 トランプ大統領の支持がポンペオ国務長官などが人道支援などに反対できなかった理由であることは明らかだ。 ポンペオ国務長官は「制裁下でも北朝鮮が食糧を購入できる」「その資金が住民たちのために使えたのにと考える。 残念なこと」(ABC放送とのインタビュー 5月5日)などと述べ、トランプ大統領の判断に抵抗しているが・・・。
しかし、より注目すべきは、「史上最強の制裁」が実施されてから1年半以上が経過してもその効果が表れないことから、強硬論に対する疑念が生じていることだ。 アメリカの北朝鮮専門ウェブサイト「38ノース」を運営するジョエル・ウィット スティムソンセンター首席研究員が19日(現地時間)、米軍の安保媒体である「ナショナルインタレスト(NI)」にリチャード・ソコースキー カーネギー財団上級研究員と共同で寄稿したトランプ大統領への書簡形式の文を通じて、トランプ大統領に朝鮮問題での進展を遂げたいならば、ボルトン ホワイトハウス国家安保会議(NSC)補佐官などのタカ派のアドバイスに耳を傾けないようにすべきと助言したことはその一例。 ポンペオ国務長官、ボルトン補佐官などの強硬論に反対する声は次第に大きくなりつつあり、共通しているのは「史上最強の制裁」の効果に疑問を投げかけていることだ。 本コラムで重ねて紹介したが、米国務省とCIAで、北朝鮮情報を分析したロバート・カーリン 米スタンフォード大学国際安保協力センター客員研究員は「史上最強の制裁」の効果について「圧迫の効能に対するほとんど宗教に近い信頼」(「ロサンゼルス・タイムズ」3月4日)と述べている。
強硬派が現在の制裁を「史上最強の制裁」と呼ぶ理由は、簡単に言えば、北朝鮮による石炭などの主力輸出品の輸出を止め、石油製品の輸入を制限したことにある。 特に2017年11月ICBM「火星15」の発射実験後、経済制裁の中でも「最後の究極の手段」とも言われてきた石油の禁輸によって、北朝鮮の産業と国民生活に大打撃を与え金 正恩政権を屈服させることができるというのが強硬派の主張である。
しかし待てど暮らせど北朝鮮の産業、国民生活に混乱の兆しは表れない。 それどころか内需が旺盛で経済は活況を呈しているのが現実だ。 北朝鮮をやっつけたい勢力にとっては信じたくないことだが現実だ。
本コラムの文字数の制限で北朝鮮の自立経済について説明することは避けるが、ひとつだけ指摘すれば北朝鮮では、同国に豊富な石炭を原料にしたC1化学工業が急速に発展しており、「最後の究極の制裁手段」と考えられた「石油禁輸」はほとんど効果を発揮していないという事実だ。
北朝鮮で「炭素1化学工業」と言われるものだが、C1化学工業の完成は今年で終わる国家経済発展5カ年戦略の主要な課題の一つである。 石炭ガス化によるC1化学工業を創設というものだ。 褐炭を利用した石炭乾留工程の整備、灰芒硝(硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、石膏、土などで構成される鉱物)を出発原料とする炭酸ソーダ工業の完備、メタノールと合成燃油、合成樹脂など化学製品生産の主体化を高い水準で実現ーなどが目標に掲げられている。 つまり燃油から肥料、デパートにならぶお菓子の包装に至るまで、石油化学ではなく、C1化学、石炭化学で解決しようというもの。 まさに自立経済の神髄で、北朝鮮にはすでに大規模な石炭液化プラント、石炭ガス化プラントが存在しフル稼働している。
知ってか知らずか、このような現実に目を背け「石油禁輸」を「最後の究極の制裁手段」と公言し「史上最強の制裁」なるもので北朝鮮を追い詰めることができると本気で思っているならお笑い草だ。
金正恩委員長が施政演説(4.12)で「長期にわたる核脅威を核によって終息させたように、敵対勢力の制裁の強風は自立、自力の熱風によって一掃しなければならない」と強調したのは根拠のない強がりではない。
米国は最近北朝鮮の貿易貨船「ワイズ・オネスト(Wise Honest)」号を差し押さえた。 これは金星国連駐在大使が21日の緊急記者会見で指摘したように、他国の領土と資産の司法免除権を採用した国連条約に違反する「違法」な「ギャング行為」にほかならない。 世界のどこの国がこの傲慢な「ギャング行為」を支持するのか? 北朝鮮に対する制裁万能論を信じてやまない強硬派の愚かな悪あがきに過ぎない。
「史上最強の制裁」は強硬派が信じる、信じたい宗教にほかならず、破綻は免れない。 すでに綻びはじめた。(M.K)
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