M.K通信 (33)悪あがき

米国の強硬派による北朝鮮に対する圧力がいよいよ悪あがきの様相を呈するに至っている。

米司法省が5月9日に北朝鮮の貿易貨船「ワイズ・オネスト(Wise Honest)」号を差し押さえたと発表したことがその一例。 この差し押さえは米国の国内法を根拠にしたもので、北朝鮮の主権を侵害するギャング行為だ。 米国は安保理の制裁決議を根拠にしているかのようにふるまっているが偽りだ。 解かりやすく言えば「真っ赤な嘘」だ。 安保理の制裁決議によっても、禁輸品の「押収及び処分」と船舶の抑留は可能だが、船舶を差し押さえることはできない。 これは解釈の違いなどではなく、小学生でも理解できること。 米国の「ワイズ・オネスト(Wise Honest)」号差し押さえは、米国内法によるもので、国際法違反ということいかなる詭弁をもってしても否定することはできない。

5月21日に国連で記者会見した金星北朝鮮国連大使は、国連総会が04年に他国の領土と資産の司法免除権を採用したことに触れ、「すべての主権国家とその資産は、他国の管轄権によって支配されることがない。 絶対的な標準は国際法の核心原則であり、国際的な共同体がこれを遵守しなければならない」と述べた。 さらに「国際法と国連憲章に照らし合わせると、(米国の)一方的な制裁と領土外での国家司法の適用は、国家間の法的平等原則と国家主権尊重の原則、他国への不介入の原則に対する明確な違反になる」と指摘。 米国の行動が、国際法と国際原則に違反するものであることを強調した。

これに対し、米国務省のモーガン・オルタガス報道官は5月23日に会見で「我々は、全てを国際法に沿って処理する」と回答したと報じられた。 国際法違反だとした金星大使の具体的な指摘に対して、モーガン・オルタガス報道官は「我々は、国際法を信じられないくらいに尊重している」と述べただけで、具体的に反論しなかった。 いやできなかったといったほうが正しいだろう。 「国際法を信じられないくらいに尊重している」との抽象的な言葉だけを強調するしかなかったことは、国際法違反が明らかなのに「尊重している」との姿勢を貫かなければならないことに対する後ろめたさの反映か? それとも国際法に対する無知がなせる技なのか? モーガン・オルタガス報道官の発言は議論の余地もない国際法違反を偽るための「信じられないくらい破廉恥なたわ言」にすぎない。

暴虐無人なふるまいと厚顔無恥な言い訳は、「史上最強の制裁」「最大限の圧迫」がなかなか効果を表さないことから焦燥感に駆られた末の悪あがきにみえる。

「最後の究極の手段」であるはずの石油の禁輸を含めた「最大限の圧迫」という制裁が実現してからすでに1年半が経過した。 しかし、制裁が狙う産業の停滞、社会の混乱、外貨の不足等々の効果を見出すことができないのが現実だ。

「最大限の圧迫」によって北朝鮮政権を追い詰めることができると信じている米韓日の保守強硬勢力は声を大にして制裁の効果を叫んでいる。 中には、制裁によってコークスの輸入ができなくなり製鉄に深刻な打撃云々というものもある。 このご仁は北朝鮮で久しく以前からコークスを用いない製鉄法が研究開発され、2009年には城鋼と呼ばれる企業所でチュチェ鉄・チュチェ鋼鉄の一貫した生産ラインが整備されたことを知らないらしい。 当時この企業所を訪れた金正日総書記が、コークスは離婚ではなく死んだと思えとのべており、北朝鮮でコークスが輸入されなくなって久しい。 これは一例にすぎないが、北朝鮮が制裁によって青息吐息の状態だというでたらめな分析が横行している。

北朝鮮は「未開の後進国」で「史上最強の制裁」「最大限の圧迫」で音を上げると信じたいのだろう。 しかし強硬派のこのような希望的観測は打ち砕かれつつある。 5月初旬の火力打撃訓練で飛ばした飛翔体がロシアのイスカンデルに似ていると話題になったが、ロシアの技術者が北朝鮮にきて作ったものではないことはあきらかだ。 また2007年に披露された各種のミサイルと移動発射のための車両も中国の技術者がきて制作したものではない。 北朝鮮はすでに人工衛星、ICBM,水爆などを自力で作れる工業力と技術を保有しているということだ。 石油の禁輸を「最後の究極の手段」と考えるのは、北朝鮮でC1化学工業の開発に十数年前から取り組んでおり、5か年計画が終わる来年にはレベルの高い石炭化学工業が完成するということを知らない強硬派の愚かな判断だ。

「最大限の圧迫」にもかかわらず音を上げない北朝鮮に業を煮やし手段を択ばず圧迫をエスカレートさせようとする強硬派の動きに眉をひそめる専門家が米国でも増えている。 ハンギョレ新聞は5月28日の電子版で、「最近、米国の政界と専門家の間でも、ボルトン流の圧迫が北朝鮮を非核化に導くのに適しておらず、状況を悪化させているという警戒心が広がっている」「制裁だけでは非核化交渉を成功させることができないという懐疑論が広がっており、微妙な変化が現れている」との、韓国の専門家の分析を紹介している。

強硬派の代表格であるボルトン安保担当補佐官は5月25日東京での記者会見で、北朝鮮の飛翔体は「安保理決議違反」と述べた。 これに対しトランプ大統領は翌26日にツイッターで、北朝鮮の単距離ミサイル発射を気にしていない、米当局者らは動揺しているが「私は違う」と強調して見せた。

このような動きと関連して、トランプ大統領は強硬派と一線を画している、との主張と、予定調和の二枚舌だ、とする相対する分析がある。 ちなみに日本の安倍政権はボルトン補佐官と同じ強硬論を唱えており、米日首脳会談後の記者会見でも、北朝鮮の飛翔体発射を問題視しないと述べるトランプ大統領とは異なり「安保理決議違反」だと主張した。 トランプ大統領の見解に公然と意を唱えて見せた安倍総理の姿勢が「二枚舌」との分析に説得力を持たせている。 この原稿の本筋ではないが、ネオコンもびっくりする強硬論を唱える安倍総理の、前提条件なしで北朝鮮との首脳会談を進めるとの発言が虚しく聞こえる。

いずれにしろ、どちらの分析が正しいかは時間が証明することになろう。

大事なことは悪あがきの様相を呈する圧力を強化しても、北朝鮮を1mmも動かせない、という事実を早く悟ることだ。

北朝鮮外務省スポークスマンは5月24日に発表した談話で次のように指摘した。

「・・・米国は今の姿勢では我々を少しも動かすことが出来ないばかりか、我々に対する米国の不信と敵対行為が加増するほど、それに応える我々の行動も伴うだろう」(M.K

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元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。