韓国の極右紙「朝鮮日報」が5月31日に報じていた、米政府との事前協議を担当していた北朝鮮高官が粛清されたとの報道が虚偽であったことが明らかになった。
「朝鮮日報」は、ワシントンを訪問してトランプ大統領と会談した金英哲国務委員会副委員長が失脚し強制労働を科せられ、金赫哲特別代表などが処刑された、と報じていた。 しかし、その直後、金正恩委員長が軍人家族の芸術サークル公演を観覧(6月2日)した際、金英哲副委員長が同行していたのが確認された。 また、「謹慎させられている」とされた金与正朝鮮労働党第1副部長も、金正恩委員長のマスゲーム・芸術公演「人民の国」観覧(6月3日)に随行したことが確認された。
「朝鮮日報」の粛清報道が真っ赤な嘘で、北朝鮮パッシングを目的にしたねつ造記事であったことが疑いの余地なく判明したわけだ。 粛清報道からわずか三日で、虚偽報道であったことが明らかになり大きな痛手を負った「朝鮮日報」は、詭弁を弄して弁明に追われているが見苦しいだけだ。
「朝鮮日報」がでっち上げた北朝鮮要人の粛清、処刑説は枚挙にいとまがない。 北朝鮮のナンバー2である崔龍海最高人民会議常任委員長の粛清説、モランボン楽団団長としておなじみの玄松月党副部長の処刑説等々例を挙げればきりがないほどだ。 「朝鮮日報」のこのようなでっち上げは数十年前から行われており、1986年11月には「金日成主席死亡説」というものもあった。 これは金日成主席が側近に銃撃され死亡したというもので、「朝鮮日報」が他紙に先駆けて大きく報じたが、1週間後にはでっち上げであったことが判明した。
「朝鮮日報」のオオカミ少年のような前歴のためか、金英哲副委員長などの粛清説には報道直後から疑問のまなざしが向けられていた。
「・・・朝鮮日報の記事は、匿名の1人の情報源の話に基づいて書かれている。 アメリカの元情報機関関係者や北朝鮮専門家たちは、今回の報道をうのみにしていない。 『軽率に信じないほうがいい。 話半分に聞いておくべきだ』と、ヘリテージ財団のブルース・クリングナー上級研究員は述べている。」
これは、「ニューズウィーク」日本版が6月3日、金英哲副委員長の健在が確認される直前に配信した「北朝鮮『対米協議』失敗で高官を処刑? 衝撃ニュースの真実味」という記事の一節だ。 「朝鮮日報」が流した粛清説が「オオカミ少年の嘘」ではないかと疑われていたことを示す一つの事例に過ぎないが、はからずも報道からわずか三日後に、「オオカミ少年の嘘」であったことが証明されてしまった。
「朝鮮日報」は「朝中東」と言われる韓国の保守系紙の一角を占める日刊紙。 保守系紙と言えば聞こえはよいが、実態は親米・反北朝鮮で凝り固まった、韓国の反共、右翼を代弁する新聞で、極右紙と呼んだほうが実態に近い。「中、東」は「中央日報」「東亜日報」のこと。 「朝鮮日報」は「東亜日報」とともに、日帝の植民地時代には「親日紙」として知られた。 この親日の恥ずべき過去については、1970年代に「東亜日報」とどちらがより親日であったかをめぐって口角泡を飛ばす論争を繰り広げこともあり、自らの親日の過去を隠蔽するのに躍起になった。 解放後には朝鮮半島の南半部を軍事保護領として占領した米軍にすり寄り、米軍の後ろ盾で作られた、反共を国是とする韓国の歴代独裁政権、保守政権の番犬の役割を果たしてきた。 「朝鮮日報」は、「朝中東」の中では最右翼で、金大中政権、盧武鉉政権、現文在寅政権の南北融和路線には反対を貫き激しい非難を繰り返してきた。 「朝鮮日報」が北朝鮮要人粛清説のねつ造もいとわず繰り返してきたのは、親日の過去と親米、反共、右翼体質に由来するもので、「公正、客観」などのマスコミのモラルを期待するのははじめから無理である。
「朝鮮日報」の粛清報道に対して韓国政府は「確認されていない」と突き放し、米国政府も「確認中」と距離を置いたことは周知の事実。 韓米両政府の姿勢と「朝鮮日報」の体質、オオカミ少年の前歴から、韓国の保守系紙を含めたマスコミと米国の大手マスコミも一歩距離を置き静観した。 北朝鮮を非難するには絶好のネタではあったが、信ぴょう性に疑問があったためと思われる。
韓米のマスコミと対称を描いたのは日本の大手マスコミの対応だ。 「朝鮮日報」の真偽不明の粛清報道の真偽を確認するそぶりも見せず、わが意を得たり、とばかりに垂れ流したのは驚きである。 北朝鮮に行くこともできず、真偽を確認するのは難しい、とはよく聞く言い訳だが、それならば報道すべきではない。北朝鮮憎しの感情で虚偽情報を垂れ流すのはもはや報道ではなく低次元のプロパガンダに過ぎない。
日本の大手マスコミの対応に輪をかけて驚かされたのは、河野太郎外相の発言だ。
河野外相は6月1日に高知県四万十市で行った講演で、「5月31日にあったロシアのラブロフ外相との会談中、米朝協議を担当していた北朝鮮の金赫哲(キムヒョクチョル)・対米特別代表が処刑されたらしいというメモが事務方から入ったことを明らかにした。 ラブロフ氏とは『おっかない』『少なくとも我々は処刑されることはないからよかった』などと話したという。」 また河野外相は「『交渉に失敗して責任者が処刑されてしまうと、次の人はどうするのか。 あいつを処刑したからお前がやれと言われたら、私だったら逃げる』とも述べた。」と報じられた。(朝日新聞デジタル 6月1日)
韓国の曰く付きの反共右翼紙が流した真偽不明の情報を確認する慎重さもなく、一国の外交を司る長としての品格のかけらも感じられない。 まるで野球を観戦している酔っ払いのヤジのような低次元の北朝鮮非難発言と言わざるを得ない。
「朝鮮日報」の報道が虚偽であったことが白日のもとにさらされた。 オオカミ少年のような極右紙の真偽不明の情報に踊らされるのは愚かだ。(M.K)
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