米国は「信頼醸成と同時行動原則」の合意を守るべき シンガポール朝米首脳会談から1年

史上初の朝米首脳会談から1年。

朝鮮の金正恩国務委員長と米国のトランプ大統領の間に形成された信頼のもと、緩やかながらも着実に進むかのように見えた「新しい朝米関係の樹立」は、残念ながら現在膠着状態にある。

ここで改めて「シンガポール朝米共同声明文(2018.6.12)」の骨子を確認してみる。

それによると、①両国は平和と繁栄に向けた両国国民の願いを踏まえ、新たな関係を築くことを約束②両国は朝鮮半島の持続的かつ安定的な平和を構築する為に努力③4.27板門店宣言を再確認し、朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向け努力する事を約束④身元確認できた戦争捕虜、行方不明者の遺骨を直ちに送還することを含め、戦争捕虜、行方不明者の遺骨収集を約束ーとある。

朝鮮はシンガポール朝米首脳会談に臨む前である2018年4月20日、朝鮮労働党中央委員会第7期第3回総会で、「主体107(2018)年4月21日からの核試験と大陸間弾道ロケットの試験発射を停止する」「核試験の中止を透明性あるよう担保するために、共和国の北部核試験場を廃棄する」と予告している。

それに伴い朝鮮は同年5月25日、「共和国北部核試験場が完全廃棄」されたと発表、 朝米首脳会談前に「朝鮮半島の完全な非核化」の第一歩を踏み出した。

また、朝鮮は2017年11月の大陸間弾道ミサイル試験発射以後、15ヶ月以上ICBMを発射しておらず、核試験も中止した。

シンガポール首脳会談後の7月27日には米軍遺骨55柱を送還するなど実質的な合意の履行をした。

一方で米国側を見ると、シンガポール首脳会談以後、2018年8月に予定された「乙支フリーダムガーディアン(UFG)」米韓合同軍事演習と毎年12月に進めてきた「ビジラントエース」と呼ばれる米韓合同空中訓練を猶予する措置を取った。

しかしそれ以降は、2019年3月18〜29日まで米韓合同演習「パシフィックサンダー」を、4月22日から2週間韓米合同空中訓練「マックスサンダー」に置き換える米韓合同総合訓練を実施した。

また3月29日には、戦略ステルス戦闘機F-35Aを2台導入するなど武力を増強させ、米韓合同指揮所訓練「キーリゾルブ」を代替して名前を変えただけの「19 -1同盟」を3月4〜 12日に実施、来る 8月には「19 -2同盟」を予定している。

これらは「朝鮮半島の持続的かつ安定的な平和体制の構築」というシンガポール首脳会談の精神に対する明確な逆行である。

朝鮮は一貫して同時行動原則による「対朝鮮敵対政策の撤回」を要求したが、米国は「先非核化後制裁解除」にこだわった。

そもそも、「寧辺核施設の廃棄意志を明確化」し核兵器をさらに生成しない意志を実践に移す非核化措置を明らかにするなど、朝鮮側がこれまでに取った諸々の措置は、米国内で軍産複合体をはじめとする反対勢力の強烈な圧力に晒され難しい立場にいるトランプ大統領の事情を慮ったある種の「善意」であり「思いやり」だったといえる。

しかし米国は、シンガポールで確認された「信頼醸成と段階別同時行動原則」を守らず、彼らの軍事分野措置の履行義務を果たさぬまま、ハノイ2回首脳会談では寧辺の核施設廃棄という朝鮮側の善意の提案に対し、それ以外にもさらに「譲歩」を加えた「ビッグディール」でなければならない主張、会談を物別れにし朝米対話を現在の膠着状態に陥らせた。

米国では未だにスーパータカ派のボルトン ホワイトハウス国家安保補佐官らが「ビッグディール」と称して朝鮮に対して古びた「先非核化後制裁解除」論を振りかざしているが、それは到底実現不可能だ。

朝鮮の非核化問題は「朝鮮半島の完全非核化」であり、米国が目論む「北朝鮮の一方的非核化」ではない。

朝鮮が実現しようとする「完全な非核化」は、朝鮮半島からの米国の核戦争の脅威の完全な除去だ。 これは国家の安全保障に関する問題であり、制裁解除や経済支援を「餌」に朝鮮の核と弾道ミサイルの放棄を引き出すという主張は、朝米間の歴史的対立経緯を無視した戯れ言だ。

朝米関係改善の核心は双方の「信頼醸成と段階別同時行動原則」だ。 朝鮮は米国が「一方的な非核化要求」を引っ込めて「新しい計算法」を持って対話に臨むよう促している。

朝鮮は今年末まで米国の行動を待つと対話期限を線引きした。 米国がシンガポールで成し遂げた合意を実質的に履行し、「新しい計算法」を持って会談に臨む時にだけ、朝米関係改善の歯車を再び動かすことが出来る。

「我々を、米国の力の論理や圧迫が通じる国の一つだと考えているのなら甚大な誤算」(ジュネーブ駐在大使)だとする朝鮮の警告を米国は真摯に受け止めるべきだろう。

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元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。