M.K通信 (36)「主権」と「承認」

開城工業団地の再開のために米国を訪れた(6月初旬)同団地の企業代表に対して米議会関係者が否定的見解を示したとの報道を見て、昨年10月のトランプ大統領の発言を思い出した。

2018年10月10日トランプ大統領は、文在寅政権が韓国の北朝鮮に対する独自制裁の解除検討と関連して、「我々の承認なくそのようにしないだろう」「彼らは我々の承認なしに何もしない」と述べた。

韓国の独自制裁とは、李明博政権下での「5.24措置」(南北貿易の中断、対北朝鮮新規投資の禁止、対北朝鮮支援事業の原則的保留など)と朴槿恵政権下での開城工業団地の全面中断がある。

韓国でこれらの独自制裁を解除する問題が浮上したのは、南北首脳会談の結果、昨年4月と9月に発表された板門店宣言、9月平壌共同宣言で開城工業団地と金剛山観光の再開、鉄道連結などの経済協力に合意したためだ。 昨年10月韓国国会の外交統一委員会の国政監査で康京和外交部長官が、与党・共に民主党代表の「5・24措置を解除する用意があるか」という質問に「関係部処と検討中」と答えたのだ。

トランプ大統領の「承認」発言はこれを受けてなされた。 国連ではなく韓国が独自に加えた制裁の解除は韓国の主権行為にほかならない。 にもかかわらずトランプ大統領はそれには米国の「承認」が必要だと述べたばかりか、この発言を契機に韓国独自の制裁解除はうやむやにされ立ち消えることになった。

トランプ大統領の発言直後、韓国の一部のマスコミは「承認」発言は韓国の主権にかかわる問題だと主張したが、まるで触れてはならないタブーであるかのように公論化されることはなかった。 しかし、トランプ大統領の「承認」発言は明らかに韓国の主権が米国によって「制限された主権」であることを示していた。 この「承認」発言から40日後の11月20日、韓米ワーキンググループが発足し、文在寅政権はワーキンググループを通じて米国の許可を得ることを強要されている。

韓国という「国家」が、1945年日帝から解放直後に朝鮮半島の南半部を占領した米軍の庇護下で成立した従属国家で、当初からその主権が制限されていたことは覆いようがなく秘密でもない。 ノルウェーのオスロー大学のパク・ノジャ韓国学教授は「ハンギョレ新聞」(2019.05.07)に寄稿した「中国、北朝鮮、ロシア、もうひとつの近代化」と題したコラムで次のように指摘している。 「米国の軍事保護領としての韓国の地政学的地位と日帝および米国との関係の中で富を蓄積した財閥の私有権を認めない政治勢力は韓国で主流足り得ない。 対米従属関係と財閥の富が危険にさらされた瞬間憲政が中断されることは火を見るより明らかだ。 また、強硬右派が執権しようが中道の自由主義者が執権しようと、経済政策において財閥の利害関係を最優先視させることは韓国の実際的な支配者たちが制限的民主化を許容したひとつの条件であった。」

朝米交渉が膠着状態にある中、ワーキンググループに縛られ米国の許可を請わなければ何一つ進められないのなら韓国の役割はないに等しい。 人道支援は国連制裁に抵触しない。 また韓国独自の制裁にも抵触しない。にもかかわらず人道支援すらも自らが進んで米国に許可を求めているいることをどう理解すればよいのか?

北朝鮮が「南朝鮮当局は、成り行きを見て左顧右眄し、せわしく行脚して差し出がましく『仲裁者』、『促進者』のように振る舞うのではなく、民族の一員として自分の信念を持ち、堂々と自分の意見を述べて民族の利益を擁護する当事者にならなければならない。」(金正恩党委員長の施政演説4.12)と忠告したのはこのためだ。

平和のためには朝米対話は欠かせない。 しかし、対話が必ずしも平和に結びつくわけではない。

米国は北朝鮮に一方的非核化を要求することで対話を膠着させた。 米国がハノイ会談で持ち出した非核化要求はリビア方式の再来で、北朝鮮の武装解除の要求だ。 朝鮮戦争は終わっておらずいつでも休戦が熱戦に変わりえる。 戦争中の相手に一方的武装解除を要求することが、どう解釈すれば平和に結びつくのか? また朝鮮半島の不安定、緊張状態は、北朝鮮が核兵器を開発したためにもたらされたのでない。 もともと非核国家であった北朝鮮を核兵器で脅かしたのは米国だ。 にもかかわらず北朝鮮の一方的非核化が平和に結びつくかのように主張するのは詭弁でしかない。 北朝鮮の安全保障を脅かしているのは米国だ。 米国の北朝鮮に対する敵対政策が終わらない限り安全保障は担保されない。 核を放棄すれば北朝鮮の安全が保障されるというのは小学生も騙せない幼稚な言葉遊びだ。

北朝鮮は米国の一方的非核化要求に対して計算法を変えて出直すことを要求している。 一方的非核化要求に体制転覆への狙いが透けて見えている以上当然の要求だ。

にもかかわらず、米国の一方的な非核化要求に同調するかのように、対話への復帰を説教することは何を意味するのか? 文在寅大統領のオスロー演説の真意はどこにあるのか?

習近平中国国家主席の訪朝日程(20日~21日)が発表され注目が集まっている。

習近平主席は朝鮮労働党機関紙「労働新聞」への寄稿文(19日)で、「国際情勢がどのように変わろうとも中朝親善協助関係を強固発展させようという中国の党と政府の確固不動たる立場」に変わりはないと述べ、北朝鮮の経済建設路線に支持を表明しながら「中国側は、朝鮮側が朝鮮半島問題を政治的に解決する正しい方向を堅持することを支持し、対話を通じて朝鮮側の合理的な関心事を解決することを支持」すると言及した。

朝中親善関係の新たな発展は、朝米間の膠着状態を打破し朝鮮半島の非核化と平和を実現する大きな契機になるとみられる。(M.K

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元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。