「トランプ親書報道」に見る朝鮮の情報戦術

「トランプ大統領の政治的判断能力と並々ならぬ勇気に謝意を表する」「興味深い内容を慎重に考えてみる」

朝鮮中央通信が23日、金正恩国務委員長がトランプ大統領からの親書に目を通す写真を掲載、先の発言を引用し、親書には立派な内容が盛り込まれていると金国務委員長が満足の意を表したと明らかにした。

これは通常ではあり得ない、きわめて異例の事だ。

朝鮮では最高指導者と外国首脳との間での親書のやり取りの事実が報道されることがあっても、最高指導者が親書を手に取った写真を公開し、なおかつ、親書に対する最高指導者の発言を報道を通じて公開する事が殆どないからだ。

注目すべきは、金国務委員長がトランプ大統領の政治判断と勇気を讃え、「興味深い内容を慎重に考えてみる」と発言していること。

今年2月末にベトナム・ハノイで行われた2回目の朝米首脳会談が物別れで終わって以降、朝鮮は米国に対し「新しい計算法」を持って朝米交渉に真摯に臨むよう再三促してきた。 今回、トランプ大統領が親書を通じて「興味深い内容」を金国務委員長に打診したと言うことは、すなわち、少なくとも従来の一方的な「先非核化後制裁解除」論以外の「何か」を朝鮮側に提示したと言うことになる。

朝鮮は余程の事がない限り今回のような報道はしないだろうから、これは、米国が「新しい計算法」を朝鮮側に伝え、それに対し朝鮮が3回目の朝米首脳会談に応じる用意があるというシグナルを発したものだとの解釈が成り立つ。

加えて、報道は中国の習近平国家主席の国賓訪問と朝中首脳会談直後に発せられている。

朝中両国首脳は「互いの社会主義建設偉業の成果を通報、全面的な支持と連帯を表明」し「意思疎通、協力して朝鮮半島の平和と安定維持する」事を闡明した。 社会主義の旗のもとでの朝中団結を知らしめた。

中国は「朝鮮半島問題の政治的解決を支持し、問題解決のための条件を整える」「朝鮮が合理的な安全保障と発展の懸念を解決することができるすべての手助けをする」との立場を明らかにした。

今回の習近平国家主席の訪朝には、外交部長、発展改革主任、商務部長、財務主任が同行している。 情報筋によると、発展改革と財務は「主任」がトップであり、財務のトップが国外に出るのは非常に珍しいとのこと。 ここから、今回の訪朝が経済問題に重点を置いたものとの推測が可能になる。 中国が朝鮮の経済建設を本格的に支援すると言うことだ。 そうなると、朝米交渉において米国が振りかざしてきた「経済制裁」カードはもはや切り札になり得ない。 米国の「唯一超大国」の横暴がまかり通る時勢ではなくなったのだ。

米国が現時点で「新しい計算法」を持って朝米交渉再開を打診するということは、朝鮮との根比べにおいて事実上「ギブアップ」したに等しい。

そう考えると、トランプ親書を報じた今回の報道は、トランプ大統領の立場に理解を示し「大統領への信頼」を見せつつ、同時に米当局の「ギブアップ」を読み取らせる、朝鮮の見事な情報戦術といえる。

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元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。