トランプ大統領が朝鮮戦争の結果に生じた軍事境界線を越えたことで、朝米交渉のステージが新たに整えられた。 板門店で行われた朝米両首脳による会談の結果、トランプ大統領は金正恩国務委員長の求めに応じてハノイ会談で示した計算法を変えて朝米対話を再開させることに合意した。 ハノイ会談での計算法とは、北朝鮮に一方的な非核化を求める、「リビアモデル」をコピーした「ビックディール」だ。 朝米対話の再開は米国が「ビックディール」を取り下げたことで可能になった。
朝鮮中央通信の報道(7月1日)によれば、板門店で両首脳は①朝鮮半島の緊張状態を緩和し、朝米両国の不幸な関係を終わらせ劇的に転換させるための方法問題と②その解決に障害となる互いの憂慮事項と関心事について協議し③朝鮮半島の非核化と朝米関係において新しい突破口を開くための生産的な対話を再開することに合意した。
つまり再開される対話の目的は、朝鮮半島の非核化と朝米関係において新たな突破口を開くためのもので、北朝鮮の一方的非核化ではないこと、再開される対話で解決されるべき核心課題が、朝鮮半島の緊張緩和と、朝米両国の不幸な関係を終わらせ転換させることにあるということだ。 朝鮮半島の非核化は、朝米間の敵対的関係の解消と、南北間の和解と協力、統一問題が複雑に絡み合った難問を解いてこそ可能だ。 それだけに一朝一夕に解決される問題ではなく、段階的にアプローチすべき課題だ。 板門店会談での合意は、現段階での対話の目的と課題を示したものと解釈できる。
上述のように、現段階において朝米間で解決されるべき課題は、朝鮮半島の緊張緩和と不幸な両国関係を終わらせることだ。 朝米両国は3年間の朝鮮戦争で銃火を交えた交戦国であり、66年にわたり休戦状態に置かれたままだ。 休戦は戦争の終わりを意味するものではない。 厳密にいえば戦争は続いているのであり、実際に朝米両国は軍事境界線を境に核兵器を含む膨大な武力を配備してにらみ合っている敵対国だ。
これが朝米両国の不幸な関係の実体で、不幸な関係を終わらせることは朝鮮戦争を終わらせることと同義語だ。 朝鮮戦争の終戦に背を向けることは敵対意志の表れにの他ならない。 反対に休戦状態を平和体制に転換させるための第一歩を踏み出すことは、朝鮮半島の非核化と朝米関係を改善する大きな突破口になる。
ハノイ会談決裂後、米国で強硬論が台頭し朝米関係が硬直化する中で、これに憂慮を示す専門家から朝鮮戦争の終戦と平和体制構築に関する提言が少なからずなされ、米国の世論が必ずしも強硬一辺倒ではないことが示された。
米国の北朝鮮専門ウェブサイト「38ノース」を運営するジョエル・ウィット スティムソンセンター首席研究員が5月19日(現地時間)、米軍の安保媒体である「ナショナルインタレスト(NI)」にリチャード・ソコースキー カーネギー財団上級研究員と共同で、トランプ大統領への書簡形式の文を寄稿したのはその一例。 この寄稿文で両氏は、トランプ大統領は、朝鮮問題での進展を遂げたいならばボルトン ホワイトハウス国家安保会議(NSC)補佐官などのタカ派のアドバイスに耳を傾けないようにすべきと指摘。 さらに朝鮮半島非核化問題の段階的解決を主張、最初の段階として朝鮮戦争終戦共同宣言と平和協定の締結交渉を開始することを提言した。 また米国務省と中央情報局(CIA)で勤務した、北朝鮮問題専門家であるロバート・カーリン 米スタンフォード大学国際安保協力センター客員研究員も4月4日、「ロサンゼルス・タイムズ」に「北朝鮮に関してトランプはジョン・ボルトンではなく、自分の本能を信じるべき」というタイトルの寄稿文を寄せた。 この寄稿文で同氏が「『ビッグ・ディールでなければ何もない』という古い旗のもと、再び外交を放棄することは、さらに多くの核兵器で武装した北朝鮮というたった一つの結果を生む」などと指摘したことも記憶に新しい。
また朝米の首脳が板門店で対話の再開に合意したことを受けて、7月11日には、ロー・カンナ議員、ブラッド・シャーマン議員の共同発議によって、米国下院の2020会計年度国防授権法案(H.R. 2500 – National Defense Authorization Act for Fiscal Year 2020)に「外交を通じた対北朝鮮問題の解決と朝鮮戦争の公式終結を促す決議」条項が追加された。 ロー・カンナ議は決議案の趣旨説明で、「超党的努力で北朝鮮との対決状態を終息させ、平和を求める時が来た」とし、朝鮮半島で恒久的な平和協定を締結するために米国政府が努力を傾けるならばこれを支持すると強調した。 米国議会で朝鮮戦争の公式終結を促す決議が議決されたことははじめてのこと。 また議決時34人の下院議員が共同発議の形で支持を表明していることは、米国で朝鮮戦争終結と平和体制構築を支持する世論が次第に広がりつつあることを示している。
遠からず再開する朝米対話を控え米国からは、長距離核ミサイルプログラムの「凍結」案が流されている。 まだ対話は再開されておらず、「凍結」案の詳細も不明で、観測気球の域を出ていない。 しかしこの「凍結」案が、朝鮮戦争を終結させ朝米の敵対関係を解消することを目的にするのではなく、北朝鮮の安全保障能力を一方的に制限し、奪うことに主眼を置くものなら、対話が再開したとしてもたちどころに壁にぶつかることになる。
さらに韓米軍事当局が8月に合同軍事演習「同盟19-2」を強行しようとしていることは、朝鮮戦争終結と平和への流れに真っ向から逆行し、緊張を激化させる愚かな行為だ。 北朝鮮外務省スポークスマンは7月16日、談話を発表し「米国は、板門店朝米首脳対面があったときから一ヶ月もたたずに最高位級が直接停止することを公約した合同軍事演習を再開しようとしている」と非難している。 もし合同軍事演習が強行されれば対話再開の重大な障害になろう。
米国は戦争を終わらせる意思があるのか、続けようとしているのか?
戦争を終わらせるのは朝鮮半島の平和、非核化への道であり、戦争を続けるのであれば、北朝鮮は核抑止力を強化する以外に選択肢はない。
朝米対話が途絶え圧力一辺倒で終始した2007年から2017年の間に北朝鮮の核開発は進み「国家核戦力の完成」に至った。 韓米当局はこの期間を「非核化の最終目標から遠ざかった失われた10年」とみて「対話は必須」との認識を示している。 戦争を続けるのはこの「失われた10年」を繰り返す愚かな道だ。
対話と圧力は両立しない。 「失われた10年」の教訓から対話と圧力を使い分けながら北朝鮮を追い詰めようとするのは、失敗が約束された悪あがきに過ぎない。(M.K)
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