M.K通信 (40)「挑発的」な米韓軍事演習

「米韓軍事演習は(北朝鮮に対して)挑発的であり、北朝鮮との包括的で完全な合意に向けて交渉が続いている状況下では不適切だ。」

トランプ大統が6.12朝米首脳会談直後の記者会見で上記のように述べ、米韓軍事演習を中止する意思を示し全世界を驚かせたことは記憶に新しい。

トランプ大統領のこのような意思は現在も変わっていないと思われる。 北朝鮮外務省スポークスマンは7月16日に発表した談話で「合同軍事演習の中止は、米国の最高統帥権者であるトランプ大統領がシンガポール朝米首脳会談で全世界が見守る中で直接公約し、板門店朝米首脳面談の時も我々の外相と米国務長官がいる場で重ねて確約した問題だ」と指摘した。 さらに8月に予定されている米韓合同軍事演習「同盟19-2」と関連、「もしそれが現実化されれば朝米実務協商に影響」し、「われわれは米国の動きを見ながら朝米実務協商開催を決心する」と強調した。

米韓合同軍事演習と言えば、春に行われる、米軍の朝鮮半島投入に備えた「キー・リゾルブ」と数十万人の米韓軍が参加する野外機動演習「フォール・イーグル」、秋に行われる、米軍支援下での韓国軍の北朝鮮侵攻をシュミレーションする「乙支フリーダムガーディアン」が代表的で、米韓3大軍事演習とされている。トランプ大統領が指摘したように、北朝鮮をターゲットにした「挑発的」な演習で、B-52戦略爆撃機とともに、時にはB-2ステルス戦略爆撃機、原子力潜水艦も投入されただけでなく、西太平洋に空母打撃群を展開させるかと思えば、ICBM実験も併せて行なわれたこともある。北朝鮮が一貫して侵略的な核戦争演習だと非難して、中止を求めてきたのは当然のことだ。

これらの軍事演習は、一昨年の2018年にはシンガポール首脳会談開催と関連、期間が短縮されたり中止されたりした。

しかし米韓の軍部は、トランプ大統領の約束にもかかわらず、早くから「規模縮小」を口実に合同軍事演習の再開を画策してきた。 今年3月の米国防当局などの発表を総合すれば、「キー・リゾルブ」を「同盟19-1」と名称を変更、「規模を縮小」して続け、「フォール・イーグル」を小規模部隊による演習に置き換え、「乙支フリーダムガーディアン」を「同盟19-2」と名前を変えて続けるというものだ。

「規模を縮小」したからと言ってトランプ大統領の公約を破り米韓軍事演習を続ける免罪符にはならない。 北朝鮮をターゲットにした侵略的で挑発的な性格には何ら変わりはないからだ。 米国防総省が「大規模連合軍事訓練の調整にもかかわらず、軍の準備態勢は以前の水準に維持される」と釘を刺し、韓国軍当局が「演習がコンピュータ・シミュレーション訓練で行われるだけに規模が重要なものではなく、訓練の内実はさらに強化される」と公言した事実がそれを物語っている。

朝米両首脳による板門店面談(6月30日)で硬直していた朝米実務会談を再開させることに合意したにもかかわらず、米韓の軍部が8月に「乙支フリーダムガーディアン」を強行しようとしており、朝米実務会談再開の大きな障害として浮上している。 上述のように北朝鮮外務省が談話でトランプ大統領が軍事演習の中止を重ねて確約したと指摘、もし強行された場合、実務会談再開の中止も辞さない姿勢を示している。

大統領の確約にもかかわらず演習が強行されようとしているとの北朝鮮側の指摘に、米韓当局はうろたえ対応の苦慮しているようだ。 その様はまるで準備不足の学芸会のドタバタだ。

聯合ニュースが21日に報道したところによれば、韓米当局が「北朝鮮の反発を考慮」し軍事演習の名称を「同盟19-2」から「有事作戦統制権検証演習」とすることを検討しているという。 演習が米軍主導の韓米連合軍が持つ「有事作戦統制権の韓国軍への移管」に向けて韓国軍の能力を検証するためにおこなれるためだからという。 「有事作戦統制権の韓国軍への移管」とは、有事の際米軍ではなく韓国軍が作戦指揮権を行使するというものだが、米国の核の傘のもとで、米韓同盟を安全保障の要とする韓国で、米軍を差し置いて韓国軍が有事作戦指揮権を行使することは不可能でありえない。 情報・監視・偵察(ISR)や戦略資産など軍事的にすべてを米国に頼る韓国軍の作戦指揮権行使が成り立たないことはあまりにも明らかであろう。 韓国歴代の「進歩政権」とも呼ばれる中道政権がこの作戦指揮権問題にこだわるのは、国民の根強い対米従属非難を和らげ右翼政権との違いを際立たせるためのパフォーマンスに過ぎない。

事実、「乙支フリーダムガーディアン」、つまり「同盟19-2」は有事の際「抑制と撃退、反撃」に必要な米増援軍の規模を判断し要請する手続きの熟練に目的があり、「作戦統制権の韓国軍への移管」は、挑発的な演習目的を隠すための口実に過ぎない。 韓国国防部が今年3月に合同参謀本部が提起した「未来地上軍再配置案」という研究課題を承認したことはあまり知られていない。 「未来地上軍再配置案」とは、一言でいえば韓国軍を北朝鮮全域に北上させ、現在の朝中国境に配備するというもので、古ぼけた「北進統一論」の焼き直しだ。 荒唐無稽な妄想とはいえ、この「案」が米韓軍事演習の再開が決定された今年の3月に承認されたことは何を意味するのか。 古ぼけた「北進統一論」と米軍の支援下で北朝鮮に進攻しようとする「同盟19-2」の目的が軌を一にするという事実、平和と共同繁栄を唱える文在寅政権が軍部の動きを制御しようとしていない事実を指摘しておく。

米韓当局が「同盟19-2」の名称変更でドタバタする一方、米国務省はトランプ大統領が板門店面談で軍事演習の中止を重ねて確約したとの北朝鮮側の指摘を否定するのに躍起になっている。 ハリー・カジアニス米国益研究所(CNI)韓国担当局長なる人物は北朝鮮外務省談話(16日)から4日目の21日、複数の米韓担当者より伝えられたとの前提で、板門店面談で米韓合同軍事演習の中断問題は「議論されていない」とFOXニュースに寄稿した。 しかし、一民間人の伝聞情報では北朝鮮外務省の公式談話に太刀打ちできないと判断したのか、翌22日のロイター電で、ポンペオ国務長官が「我々は、トランプ大統領が金委員長に軍事演習に関して約束したことを正確に行っていると思う、と説明した」との報道が流れた。

この報道をよく読んでみると奇妙な事実に気づかされる。

まずはこのロイター電が、[ワシントン 19日 ロイター]のクレジット入りで3日後の22日午前に配信されていること。 つぎに、ポンペオ国務長官の発言は、談話発表の翌日である17日に行われた、あるテレビ番組とのインタビューで語られたと、国務省が公表したとされていること、だ。 このような報道のセオリーを逸脱した奇怪なロイター電をまともに信じる人がいるのだろうか??? ポンペオ国務長官の否定発言とされるものも抽象的で煮え切らず、北朝鮮外務省の談話に苦慮している様がありありだ。

朝米実務会談再開と関連する米韓の対応はあまりにもレベルが低すぎる。 準備不足の学芸会のようにドタバタするのではなく、トランプ大統領の約束に従って、軍事演習を中止するのが賢明な選択ではないのか。(M.K

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元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。