敵対の悪循環を断ち切り新しい関係を築くためには、新しい計算法が必要であることは明らかだ。 古い計算法に執着し、愚かな計算法で北朝鮮を欺瞞し篭絡しようとするのは、体制転覆を狙う敵対的意志の表れだ。
米国の古い計算法は限界に直面しているようだ。
米国がハノイ会談で持ち出した「ビックディール」はブッシュ政権下でネオコンが考案したCVID(完全で検証可能かつ不可逆的な非核化)の焼き直しで、古い計算法そのものだ。 北朝鮮が、「ビックディール」は体制転覆を目的にした武装解除論であると強く非難し、新しい計算法を持って出直すことを米国に求めていたことは周知の事実だ。
トランプ大統領は6月30日に、米国大統領としてはじめて軍事境界線を越え北朝鮮の地を踏み、金正恩委員長との間で、新しい 計算法をもって朝米実務交渉を再開させることに合意した。 これに先立つ6月19日、ワシントンで開かれた米国のシンクタンクである大西洋協議会と東アジア財団による戦略対話でビーガン特別代表が「(朝米)双方は柔軟なアプローチの必要性を理解している」「米国は両首脳がシンガポールで行ったすべての約束について協議する準備ができている」と述べ、「ビックディール」とは異なる対話姿勢を強く打ち出したのは偶然ではなかったわけだ。
しかし、対話再開に合意してからひと月が過ぎた現在に至っても交渉が再開するめどが立っていない。
北朝鮮が、8月に予定されている米韓合同軍事演習「同盟19-2」を問題視したためだ。 北朝鮮外務省スポークスマンによれば、6.30首脳面談時にトランプ大統領は軍事演習の中止を重ねて確約したという。 わざわざ北朝鮮外相と米国務長官がいる場所で約束したと指摘していることから事実だろう。 それにしても米大統領の確約がいとも簡単に反故にされ米韓の軍部によって演習が強行されるのは奇々怪々と言わざるを得ない。
このためか北朝鮮外務省スポークスマンは「我々が核実験とICBM発射を中止することにしたことや米国が合同軍事演習を中止することにしたのは、どこまでも朝米関係改善のためにした公約で、紙に書いて法律化したものではない」と述べながら「米国が一方的に自身の公約を履行しないことにより、われわれが米国とした公約に残る名分も徐々に消えつつある。 他方が守りもせず気にも留めようとしないのに、守ったからといって得になることもない状況で一方だけがそれを引き続き守る義務も道理もないだろう」(7月16日)と指摘した。
米韓合同軍事演習は戦火を交えた朝米対決の産物で古い計算法の象徴だ。 軍事演習は当然ターゲットにされた北朝鮮の対応措置を招き緊張を激化させる。 米国大統領の度重なる約束にもかかわらず、休戦以来66年の長きにわたり延々と続いてきた軍事対決を再燃させることが朝鮮半島の非核化を実現する計算法なのか? 米国による核の脅威、軍事的威嚇が北朝鮮の核兵器開発を招いたにもかかわらず…。
北朝鮮と「平和の握手」を交わした文在寅政権下の軍部は「同盟19-2」と名称だけを変えた「乙支フリーダムガーディアン」軍事演習に積極的だ。 「有事作戦統制権の韓国軍への移管」に向けて韓国軍の能力を検証するためにおこなれるためだからというが、いかなる場合でも米国大統領が統帥権者である米軍が韓国軍の指揮下に入ることはない。 万事米国の「承認」なしには一歩も動けない韓国の政権が「有事作戦統制権」を行使して米軍を指揮することなどありえないことは小学生でもわかることだ。 「同盟19-2」は有事の際米軍の支援下で北朝鮮に侵攻するための挑発的な戦争演習に過ぎない。
北朝鮮は韓国軍部のこのような行為を「隠蔽された敵対行為」として警戒心を隠しておらず、文在寅政権による最新鋭のステルス戦闘機「F35A」の導入も厳しく非難している。 「F35A」40機の導入は2014年 3月に、北朝鮮との全面対決を唱えていた朴槿恵政権下で決められた。 そのステルス性から北朝鮮に対する先制攻撃に備え導入が決定されたものだが、文在寅政権はそれを中止しようとしなかったばかりか、「F35A」40機に加えプラス20機の導入を決めたという。
戦争演習と最先端ステルス攻撃機の導入は、平和と共同繁栄を唱え「平和の握手」を演出する文在寅大統領の笑みに似つかわしくないのではないか。 衣の下から鎧が見える文在寅大統領の行動は「平和の握手」の真意を疑わせる。
ハノイ会談で米国が「ビックディール」を持ち出したことに対し、北朝鮮が新しい計算法をもって出直すことを要求、朝米関係が硬直化した6月中旬北欧を外遊した文在寅大統領がスウェーデン国会での演説(6月14日)で表明した姿勢は非常に興味深い。 文在寅大統領は、一方的非核化に反対し朝鮮半島の非核化を求め米国に相応の措置を求める北朝鮮の主張を否定、「完全な核廃棄と平和体制構築の意志を国際社会に実質的に示す必要」を解き、米国の「ビックディール」に組する姿勢を露わにした。 さらに同大統領は、「北朝鮮の平和を守ってくれるのも、核兵器ではなく対話」と対話至上論を展開して北朝鮮が一方的に核兵器を廃棄することを求めた。 まるで、韓国が米国の核の傘に依存し、最先端ステルス攻撃機など米国の兵器体系で武装して、北朝鮮をターゲットにした合同軍事演習を行っていることは忘れてしまったかのように…。 衣の下から鎧と非難されても返す言葉がないのではないか?
文在寅政権は北朝鮮との間で数々の合意を生み出したが、実行に移した意味ある行動は何もない。 理由は制裁と米国の反対で、実行する意思さえあればできることまで意図的に回避してきたというのが正解だ。 ハンギョレ新聞は「『実際、人道支援問題は政府がしようと思いさえすれば、やれば出来る』。人道支援がなされない理由を取材する中で会った政府関係者の話だ。 実際そうだ。」(5月15日)と報じた。 また同紙によれば、朝米対話に精通した韓国政府関係者は「米国は対北朝鮮人道支援によって北朝鮮が息を吹き返すことをと心配している」と述べており、文在寅政権が北朝鮮を疲弊させるために、しようと思いさえすれば出来る人道支援を意図的に回避して米国に歩調を合わせてきた、というのが実際のところであろう。
金大中・盧武鉉政権時に「太陽政策」を推進した丁世鉉元統一部長官は「太陽政策」の目的について、経済的優位を背景に「北朝鮮の民意を得るため」と公然と述べている。 北朝鮮の民心を動揺させ体制崩壊を追及する「北進統一論」に他ならない。 北朝鮮には、シリアやリビアのように米国が涵養してきた反政府勢力は存在しない。 シリアやリビアでは反政府勢力に資金と武器を与え内戦を起こし、リビアでは体制転覆に成功した。 朝鮮半島で北朝鮮の反政府勢力の役割を担うのが、韓国による「平和に握手」であるようだ。 文在寅政権が米国の新兵器を積極的に導入し、米国の兵器体系で武装するのは、「平和の握手」の効用で北朝鮮内部が揺れた機会を有事ととらえ対処するためであろう。 愚かな計算法と言わざるを得ない。
北朝鮮はICBMに水爆を兼ね備えた核保有国だ。 万事に米国の承認を得なければならない、米国の軍事保護領に過ぎない韓国に北朝鮮の民心がなびくと考えるのは愚かだ。 文在寅政権が愚かな計算法に固執すれば、すでに始まっている北朝鮮による「韓国パッシング」を免れない。
古い計算法、愚かな計算法はより高度な核兵器で武装した北朝鮮を見る結果を招くことになる。(M.K)
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