M.K通信 (44)GSOMIA破棄の衝撃

文在寅政権が韓国と日本の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄を決断して発表した(22日)。

この決定は安倍政権に大きな衝撃を与え、米韓日の「安全保障体制が大きく揺らぐ」ことになると波紋を広げている。

安倍政権も日本のマスコミも文在寅政権がGSOMIAを破棄できないと踏んでいただけに予想外の結果に衝撃を受け感情的に反発、「経済問題と安保問題を混同する愚かな判断」などと、文在寅政権を攻撃するのに躍起になっている。 青瓦台(韓国大統領府)が明らかにしたように、安倍政権は韓国をホワイト国から除外する理由を安全保障問題に求め、韓国を信頼できないと非難していた。 安全保障問題を理由に韓国をホワイト国から除外した安倍政権が、安全保障のために軍事情報包括保護協定・GSOMIAの延長を求めること自体が二律背反の主張にすぎない。 ホワイト国からの除外理由を安保問題に求めたのなら、「信頼できない」韓国とのGSOMIAも自らが破棄してしかるべきではないのか? 「経済問題と安保問題を混同する愚かな判断」などの主張は、ご都合主義で身勝手なプロパガンダに過ぎない。

GSOMIAの破棄は、過去の植民地政策を正当化し、韓国を格下とさげすみ、謀略的な情報をでっち上げ、文在寅政権を頭ごなしに押さえつけようとした安倍政権の傲慢極まりない姿勢が招いた結果である。

フッ化水素を北朝鮮に横流ししたかのような、ありえもしないでっち上げ情報を政府が率先して流し、反韓世論を作り上げホワイト国除外の口実を作った卑劣な手法、フッ化水素などの輸出制限を発表して、韓国の急所を突いた措置であるかの如く得意げにふるまい、韓国の親日勢力に反文在寅世論の拡散を扇動するかのような言動ーなどなどの行為は、韓国で反安倍政権世論を呼び起こすのに十分すぎる原因であったとみられる。 またこの悪質で稚拙なプロパガンダに乗って反文在寅政権キャンペーンを展開した日本のマスコミの見識のなさがこれを後押ししたのは疑いない。

文在寅政権が破棄に踏み切ったGSOMIAは、もともと軍事的に保護する「同盟国」である日本と韓国を安全保障で結び付け米日韓の軍事一体化を促進させようした米国の強い要求によって結ばれた。 GSOMIAは、2009年1月に韓日の首脳が合意した「日韓新時代共同研究プロジェクト」に基づき、安保問題まで含めた「複合ネットワーク」構築の目標に従い、2011年1月から論議が本格化した。 韓国が保守政権下にあったこともあり、議論は順調に進み、2012年6月29日に締結するとの合意にまでこぎつけた。

しかし予定時間の1時間前に締結が延期される。 延期の原因について、保守系紙「中央日報」は「親日という文字が刻まれていては(12月の)大統領選挙の局面突破は容易でない」と報じた(2012年7月2日)。この年の12月には大統領選挙が予定されており、立候補者は、奇しくも朴槿恵前大統領と文在寅現大統領であった。 韓国で、植民地宗主国であった日本といかなる形であれ軍事協定を結ぶのは親日的であるとの根強い反対世論がある中で、当時の保守政権は保守政権の存続、朴槿恵候補当選のためには延期やむなしと判断したのである。

世論の反対で延期されたGSOMIAが締結されたのは2016年11月23日のこと。 朴槿恵前大統領がスキャンダルで弾劾追訴されたのが2016年12月9日であったことに注目する必要がある。 GSOMIAが締結された2016年11月23日といえば、弾劾追訴のわずか15日前である。 この時すでに朴槿恵前大統領は実権を失い政権は形骸化していた。 にもかかわらず、盗人のようにこっそりGSOMIAを締結した背景には米国の強い要請があったことは秘密ではない。 政権末期の混乱に乗じて反対世論を掠めて駆け込み締結したGSOMIAに国民の支持がなかったことは言うまでもない。 GSOMIA破棄と関連して日本の多くのマスコミは、破棄に反対する親米、親日派の声を大きく取り上げているが、韓国の世論調査の結果は賛成が反対を上回っている。 GSOMIA締結の経緯からみても当然のことであろう。

ホワイト国除外とGSOMIA破棄にみられる文在寅政権と安倍政権の対立は、北朝鮮の「国家核戦力の完成」に伴う朝米の和平交渉と平和と協力に向けた南北関係改善と無関係ではなさそうだ。

南北対話のきっかけになった平昌オリンピックの時、訪韓した安倍首相が文在寅大統領に米韓合同軍事演習を延期してはならないと迫り、文大統領が内政干渉だと反発したのは記憶に新しい。 安倍政権はシンガポールでトランプ大統領が米韓合同軍事演習中止を決めたことに対しても憂慮を示すなど、一貫して朝鮮半島の緊張緩和に反対する強硬論を掲げた。 特にトランプ大統領による北朝鮮との融和への動きに対して深刻な危機感を示し、米国の強硬派と組み抵抗を試みたと関係筋は伝えている。

安倍政権の強硬論は朝鮮半島分断構造の変化に対する、筋違いとも言える深刻な危機感を背景にしている。

日本の右翼論客が指摘しているように、朝米和解と南北関係の改善は、日本が防衛ラインと考える朝鮮半島の軍事境界線が対馬諸島に南下してくる結果を招き、日本の安全保障に重大な影響を与える、というのがその危機感の正体だ。

一昔前の古びた釜山赤旗論の現代版ともいえる防衛ライン対馬南下論は、過去に朝鮮半島を植民地として支配した日本が、今日は、朝鮮民族の悲劇的な分断を利用しようとする、極めて傲慢で、差別的で、身勝手な、許しがたい安保論だと言える。 このような安保論は、北であれ南であれ分断の悲劇を生きる朝鮮民族の指弾を免れ得ず、国際的にも受け入れられまい。 例外は韓国の親米、親日勢力だ。 外勢に依存して利益をむさぼる一握りの親米、親日勢力を扇動して目的を果たそうとするのは、欧米勢力が他民族支配のために駆使する古くて新しい分断統治の手法だ。 日本政府とマスコミは必死になって韓国の親米、親日勢力を煽ろうとしているように見えるが、韓国世論の大勢をくつ返すことはできまい。

GSOMIA破棄は米日韓の安保体制に大きな打撃であり、今後朝米対話と南北関係に大きな影響を及ぼすことになろう。(M.K

スポンサードリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

ABOUTこの記事をかいた人

元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。