朝米実務交渉再開に赤信号がと灯った。
ポンペオ米国務長官の分別のないワンパターンな強硬発言がきっかけになった。 「史上最も強力な制裁」(8月21日)を云々するかと思えば「ならず者の振る舞い」(8月29日)などと、使い古された脅し文句を繰り返した。 トランプ大統領の約束をいとも簡単に反故にして合同軍事演習を強行した米韓の挑発に対して、新兵器の試験発射、デモ発射で応じた北朝鮮に対する苛立ちの表れだろう。
「史上最も強力な制裁」発言に対して李容浩北朝鮮外相は8月23日に談話を発表して、ポンペオ国務長官を「米外交の毒草」と非難、「対話にも対決にも全て準備ができている」「我々は米国の最大の『脅威』として長い間残っているであろうし、米国をして非核化のために米国自身がやるべきことが何であるのかを必ず悟らせるであろう」などと指摘した。 また崔善姫北朝鮮第1外務次官は8月31日、ポンペオ国務長官の「ならず者の振る舞い」発言に対して「甚しい冒とく」と怒りを示し、「米国との対話に対する我々の期待は次第に消つつあり、我々をして今までの全ての措置を再検討しなければならない状況へ進ませている」と指摘した。
北朝鮮の外相が米当局者の発言に反応して外相名でコメントを発表するのは異例なことだ。 さらに外相談話から1週間後に第1外務次官が対米談話を発表するのも見たことがない。 特に崔善姫第1外務次官は「予定されている朝米実務協商の開催をより困難にした」と明確に指摘しており、朝米実務交渉再開に赤信号が点滅した。 にもかかわらず韓国の文在寅政権の周辺からは、北朝鮮外相と第1外務次官のコメントを我田引水に解釈して朝米実務会談再開に楽観論を示す向きがあるが、ことはより深刻に見える。
「ならず者」「不良国家」とは懐かしい言葉だ。 確かトランプ大統領が2017年の国連総会で北朝鮮とイランを「ならず者国家」と非難したが、その後朝米対話が始まったこともあり、トランプ政権下ではこの品のない非難用語は使われなかった。 この表現を多用したのは北朝鮮に対する強硬関与を進めたブッシュ政権を支配したネオコンであったと記憶する。 当時ブッシュ政権は北朝鮮を「悪の枢軸」「ならず者国家」と中傷しながら、軍事的、経済的圧力を最大化させながら「先非核化」を迫り体制転覆を画策した。 6者会談共同声明で約束した朝米関係の改善、強固な平和体制の構築には一歩も動かず、6者会談を破綻させ北朝鮮を核武装へと押し出したのは記憶に新しい。
北朝鮮を非難するのにこの懐かしい「ならず者」というフレーズを引っ張り出したポンペオ国務長官は、6者会談当時は法律事務所で働きながらティーパーティーに熱を上げていた。 まだ連邦議員にもなっていない時のこと。 このためかポンペオ国務長官は昨年4月上院での国務長官指名承認公聴会で、過去に米国が行った北朝鮮との交渉記録を読んで研究したと述べながら「過去の過ちを繰り返さないという自信がある」と指摘していた。 研究した内容は定かではないが、シンガポール首脳会談以来ポンペオ長官は一貫して強硬姿勢を貫き6者会談破綻の道を踏襲しているようだ。 余談になるが、ポンペオ長官は、米国務省に勤務し退職後は外交問題評論家として活躍、米国の戦争犯罪・国家犯罪を次々と暴露し「『ならずもの国家』なるレッテルはアメリカ合衆国自身に対してこそふさわしい」と指摘した、ウィリアム・ブルム(William Blum)氏の爪の垢でも煎じて呑んだほうが良いのではないか。
6者会談、いやジュネーブ合意当時から、脅したり賺したりと、単純だが傲慢で悪質な米国の交渉手法は変わっていない。 体制転覆を狙って核兵器による恫喝を繰り返し、制裁による圧力で武装解除を迫り、武装解除に応じれば安全を保障すると甘言を囁く。 リビアのカダフィ政権は武装解除して米国と国交を結んだが、その4年後に軍事攻撃を受けて滅ぼされた。 脅しに屈せず甘言に騙されない相手とは、合意はするが実行せず、約束はするが守らず、軍事的、経済的圧力で疲弊させ屈服させようとする。
米国のこのような交渉手法は6.12シンガポール首脳会談以後も変わっていない。
朝鮮半島の非核化を「北朝鮮の非核化」であるかのごとく歪曲して、一方的非核化を要求し、朝米関係の改善、平和体制構築に合意しておきながらその入り口にも立とうとしないのは、クリントン政権やブッシュ政権と何ら変わるところがない。 ジュネーブ合意であれ6者会談共同声明であれ、歴代の政権は北朝鮮の体制保障と朝米正常化、平和体制構築に合意したが、何ひとつ実行しようとせず、「先非核化」を強要しようと様々な手段で圧力を加えた。 シンガポール首脳会談から1年以上過ぎているが、振り返って見ればトランプ政権の行動は歴代政権の行動を繰り返しているに過ぎないことがよくわかる。
トランプ大統領が6.12シンガポール首脳会談を前に一方的な非核化を追及する「リビアモデル」を否定して見せたがハノイ会談で持ち出した「ビックディール」は「リビアモデル」の焼き直しにすぎない。 また、首脳会談直後には米韓合同軍事演習の中止を約束したが、今年の春からは演習の名称を変えて再開された。 シンガポール共同声明では朝鮮半島の非核化がうたわれたが、その直後に平壌を訪問したポンペオ国務長官はCVIDに基づく一方的非核化を求め北朝鮮側側から「強盗の要求」と非難されたこともあった。 大統領の約束も守られない奇怪な出来事は6.30板門店首脳面談でも繰り返された。 合同軍事演習を中止するとしたトランプ大統領の約束はいとも簡単に反故にされた。 トランプ大統領は演習は「私も好きではない」と述べているが演習は強行され、中止約束は二枚舌になってしまった。
米国の交渉手法を誰よりも熟知する北朝鮮は当初から段階的接近と同時行動を原則に定め、合意しても実行せず、約束しても守らない米国を効果的に制御し、一方的な非核化要求、武装解除の試みは空回りを余儀なくされている。
北朝鮮の反発を招いたポンペオ長官の「史上最も強力な制裁」「ならず者の振る舞い」などの暴言は、圧力に動ぜず、甘言に揺るがない北朝鮮に対する苛立ちと敵意の表れのように見える。
朝鮮戦争は終わっていない。 戦争中の相手に武装解除を求めても応じる愚かな国は世界にあるまい。 戦争を終わらせなければ朝鮮半島の非核化は始まらない。 一方的非核化要求は対話を破綻させ、より強力な核兵器で武装した北朝鮮を見る結果になろう。
米国は合意しても実行せず、約束しても守らない不誠実で悪質な交渉姿勢を新ためるべきだ。
朝米実務交渉の再開は米国の姿勢にかかっている。(M.K)
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