北朝鮮で、7月から9月までの間に、単距離飛翔体の発射が相次いで行われた。 北朝鮮の発表によれば飛翔体はいくつかの種類に分けられるが、いずれも最先端技術を駆使した新兵器で、北朝鮮の驚くべき技術水準と兵器開発能力を示した。
北朝鮮ではこれらの新兵器をチュチェ弾、チュチェ兵器と呼んでいる。 というのも国家の指導理念であるチュチェ(主体)思想に基づき、自身の科学技術と力を土台に開発した兵器であるためだ。
朝鮮中央通信によれば飛翔体の種類は四つで、「新型戦術誘導兵器」(7.25、8.6)「大口径多連装ロケット砲」(7.31、8.2)「新兵器」(8.10、8.16)「超大型多連装ロケット砲」(8.24、9.10)と報道された。 ()内に示した数字は該当の飛翔体を試験発射した日にちで、それぞれ二回づつ発射実験を行ったようだ。 北朝鮮は多連装ロケット砲を除く飛翔体については、「新型戦術誘導兵器」「新兵器」としか表現しておらず、日本や韓国では前者をロシアのイスカンデルに似た単距離ミサイル、後者を米国のATACMSに似た単距離ミサイルなどと報道されている。
これら四種の兵器は、▲射程が約200キロから600キロの単距離飛翔体で、▲速度がマッハ6から7の極超音速で飛ぶ飛翔体で、▲高度が約25キロから50キロ前後で、低い弾道のディプレスト軌道を実現しており、▲目標を正確に打撃できる精密誘導弾であることが確認された。 またそれぞれの専用の移動発射車両も確認されており、機動性に優れた高性能の実用兵器であることがわかる。
特に「新型戦術誘導兵器」は、実験を通して「戦術誘導弾の低高度滑空跳躍飛行軌道の特性とその戦闘的威力」を確認したと報道されており、プルアップ機動を持つ迎撃困難な最先端の単距離ミサイルであることを確認することができる。 プルアップ機動などの性能がイスカンデルと酷似していることから「北朝鮮版イスカンデル」などとよばれているが、イスカンデルよりも射程も長く速度も速い。 「新型戦術誘導兵器」は、8月6日に西部地域から標的として定めた東海上の岩礁まで37キロの高度で450キロ飛ばして命中させている。 8月2日には「大口径多連装ロケット砲を25キロの高度で220キロ、8月16日には「新兵器」を30キロの高度で230キロを極超音速で飛行させ標的に命中させている。 続けて9月10日には「超大型多連装ロケット砲」を試射しているが、「飛行軌道の特性、正確度と精密誘導機能が最終的に検証された」と報じられており、いずれの兵器においてもその驚くべきディプレスト軌道での飛行能力と精密誘導技術を見せつけた。
北朝鮮が「新兵器」(8.10、8.16)とだけしか発表していない飛翔体が米国のATACMS短距離弾道ミサイルと「酷似」していると報じられ、さらにはATACMSが韓国に配備されていることから韓国からミサイル技術が流失したと、ありえもしない説を流す愚かな報道もある。 これが間抜けなほら話であることは、「新兵器」とATACMSとの性能の違いを見ても一目瞭然だ。 ATACMSは30年以上も前に米国が開発したミサイルで射程が300キロ程度、速度もマッハ3程度で、ディプレスト軌道で飛ぶこともできない。 また命中精度も悪く、子爆弾を弾頭に積んで精度の悪さをカバーする旧型の短距離弾道ミサイルだ。 これに比べ「新兵器」は、ATACMSより大きく速度も2倍以上で、精密誘導で標的を正確に打撃できるだけでなく破壊力も比べ物にならない。 「新兵器」に比べて一世代以上も古いATACMSの技術流失を云々する一部報道の無知にはあきれるばかりだ。
また韓国の軍部は北朝鮮の一連の試射と関連して、韓国にも同性能のミサイルがあると虚勢を張り、韓国軍自慢の玄武ミサイルを最新鋭のミサイルであるかのように振舞っている。
韓国民の手前虚勢を張ることは理解できるが、玄武-2もATACMSと同様で、北朝鮮の「新型戦術誘導兵器」とは性能面で比較にならない旧型のミサイルだ。 玄武-2弾道ミサイルはロシアの弾道ミサイル技術を土台に開発されたというが、モデルになったのはイスカンデルの一世代前の、1987年には廃棄が決まったオカーで、オカーミサイルをリバースエンジニアリングしたものであることが明らかになったいる。 2011年6月に韓国のマスコミは、情報機関の指導の下で弾道ミサイルをロシアから盗み出した韓国人の話が報道された。 それによると、1997年にロシアから廃棄されたミサイルの解体を依頼された韓国企業の社長が情報機関に報告、情報機関の指導下で解体を依頼されたミサイルの部品を韓国に搬出、それを基に開発されたのが玄武-2だ。 ただこの時期にはイスカンデルはまだ開発中で、それ以前のミサイルとみられることから、一世代前のオカーであることがわかる。(Wikipediaー玄武 (ミサイル))
ロケット技術において韓国は北朝鮮に大きく立ち遅れている。
自前のロケットで衛星を打ち上げたのは、北朝鮮を含めて世界で10か国しかない。 韓国は現在、衛星を打ち上げるためのロケットをもっておらず、2018年11月28日、純国産ロケット「ヌリ号」の、エンジン試験用ロケットの打ち上げに成功したのがやっとだ。 韓国の保守政権は2020年には月に旗を立てると大言壮語したが、まだ自前のロケットで衛星を打ち上げられる技術的めども立っていないのが現実だ。
北朝鮮による2012年と2016年の衛星打ち上げ、2017年の中長距離弾道ミサイルの発射実験、最近の単距離飛翔体の試射は、厳しい制裁の中で行われた。 特に軍備関連の貿易などが厳しく統制されている中で、北朝鮮の兵器開発は独自の科学技術と資源によって行われており、新兵器の開発を可能にする先進レベルの工業基盤がそれを支えている。 衛星打ち上げロケットと各種の最先端ミサイル、移動発射車両等々の製造は裾野の広い工業がなければ不可能であることは明らかだ。
兵器開発で示された北朝鮮の高い技術と先進工業基盤は、米日韓と欧米が作り上げてきた「立ち遅れた後進国」のイメージからかけ離れている。 最先端技術の集合体であるロケット技術をみれば立ち遅れているのは韓国の方で、北朝鮮を「後進国」に描くキャンペーンは虚構に満ちたプロパガンダに過ぎない。 北朝鮮を「立ち遅れた後進国」と欺くのは限界にきている。 そのように描きたい人々にとっては非常に残念なことだが・・・。
石油だけではなく、工業製品から民需品、消耗品に至るまで輸出入を禁じた「最大限の圧迫」では北朝鮮の白旗を見ることはできない。 制裁と圧迫で北朝鮮をギブアップさせられると考えるのは妄想だ。 ハノイ会談から単距離飛翔体の発射実験に至る過程と、チュチェ弾、チュチェ兵器はそれを証明して余りある。
数週間の間に開かれる朝米実務会談を前に、北朝鮮外務省米国担当局長は「朝米対話は危機と機会の二つの選択を提示している」と指摘した。 米国の賢明な選択が期待される。(M.K)
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