近々開かれる朝米実務交渉が、膠着局面におちいっている朝米間の和平交渉を打開する新たな契機になるのか?内外の耳目が集まっている。
トランプ大統領がボルトン安全保障担当補佐官が固執する「リビア方式」を「非常に大きい誤りだった」と批判、同氏を解任(10日)して、「新しい方法がもっと良いかもしれない」(18日)と語ったためだ。去る2月のハノイ首脳会談で「リビア方式」そのものである「ビックディール」を持ち出した米国に対して、「新しい計算法」をもって出直すことを求めた金正恩委員長の要求にトランプ大統領が「新しい方法」という表現で答えた形だ。
これに対して、北朝鮮側首席代表として朝米実務交渉に望む金明吉(キム・ミョンギル)外務省巡回大使は20日にコメントを発表し、「・・・古い方法ではだめだということを知り、新しい代案でやってみようとの政治的決断は、歴代の米国執権者たちが考えもしなかったしできなかったことで、トランプ大統領特有の感覚と気質の発現と考える」と指摘した。
トランプ大統領が述べた「新しい方法」の中身は定かではない。しかし、「リビア方式」をはっきりと否定したことは明らかだ。
「リビア方式」とは、2001年に発足したブッシュ政権が、クリントン政権のジュネーブ合意を見直す過程で、ブッシュ政権を支配したネオコンが「強硬関与」の原則として作ったCVID(「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化」)のことだ。ボルトン安全担当補佐官は当時国務次官でイラク侵攻を主導し、リビアを武装解除させた成功体験を持つ。CVIDがリビアで成功したことから「リビア方式」「リビアモデル」などとよばれているが、朝鮮半島では北朝鮮の反撃にあい失敗、破綻した。
20年近くも前に作られたこの古臭い方法は、トランプ政権下でネオコンによって再び持ち出され、朝米関係の和平交渉を妨げる悪性腫瘍になっていたと言える。トランプ大統領が「リビア方式」を非難しボルトン補佐官を解任したことは、悪性腫瘍を除去して朝米関係を前に進める決意の表れとみることができる。しかし、政権外に去ったボルトン氏とともにCVID、「リビア方式」がゴミ箱に破棄されたと判断するのは早計であろう。
なぜなら、トランプ大統領が「リビア方式」を否定したのは初めてではないからだ。昨年6月のシンガポール首脳会談を前に、トランプ大統領が「リビア方式」を主張するボルトン補佐官を前にして「リビア方式を追及しない」と否定して見せたのは記憶に新しい。しかし、シンガポールで発表された朝米共同声明を履行するために開かれた朝米高官協議でポンペオ国務長官は、「核申告」「核リストの提出」等々一方的非核化を求めたばかりか、今年2月のハノイ会談で米国が「ビックディール」を持ち出すに至ったのは周知の事実だ。シンガポール会談を前に「リビア方式」を否定したトランプ大統領発言の真意がどこにあったにせよ、「リビア方式」否定発言は二枚舌になってしまった。
ボルトン補佐官は政権外に去ったが、ポンペオ国務長官をはじめトランプ政権内に陣取っているネオコンは、大統領の「リビア方式」非難にもかかわらずCVIDに執着している。
ポンペオ国務長官はボルトン解任直前まで「史上最も強力な制裁」(8月21日)、「ならず者の振る舞い」(8月29日)などと、北朝鮮に対する敵意をむき出しにしていた。これに対して、李容浩北朝鮮外相が「米外交の毒草」と非難(8月23日)したことは周知の事実だ。またポンペオの国務省で東アジア・太平洋担当国務次官補を務めるデビッド・スティルウェル氏は、ボルトン解任直後の18日に行われた米上院外交委員会の聴聞会で、「北朝鮮が完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)を約束するまで、いかなる制裁も緩和しないのか」というガードナー共和党議員の質問に対し、「政策(の重点は)依然として北朝鮮の完全な検証にある。それは絶対変わらない」と答えた。また、同議員が再び「完全に検証された非核化がCVIDと同じものか」と尋ねると、「そうだ」と答え、CVIDに執着する姿勢を露わにした。さらにボルトン解任を前後して、財務省による制裁措置が追加されるかとおもえば北朝鮮を貶めるデマ情報が飛び交うなど、政権内外の強硬派による動きが露骨になっている。
CVID、「リビア方式」を「非常に大きい誤りだった」ととした大統領発言の直後に、国務次官補程度の官僚が議員の質問に答える形でCVIDを肯定したことをどう理解すればよいのか?そういえば、去る6月の板門店会合での米韓合同軍事演習を中止するとのトランプ大統領の約束も反故にされ、二枚舌の結果になってしまった。「リビア方式」は「誤り」、「新しい方法」で、としたトランプ大統領の発言が、またもや二枚舌になることはない、と信じたいところだ。
北朝鮮外務省米国担当局長は16日に発表した談話で、再開される朝米実務交渉と関連、「われわれの制度の安全を不安にし発展を妨害する脅威と障害物が、きれいに、疑いの余地なく除去されるときになってこそ非核化論議もできることになる」と指摘した。「安全を不安にし発展を妨害する脅威と障害物」とは、米国の対北朝鮮敵対政策と核の脅威、制裁であることは明らかだ。米国の「新しい方法」が北朝鮮の要求にどのような答えを準備できるのか、が朝米実務交渉の焦点だ。
安全の保障は、言葉でなく行動で示されなければならない。安全の保障について米国はジュネーブ合意、6者会談共同声明、シンガポール共同声明で、「公式な保障を提供」、「攻撃又は侵略」をしない、「安全担保を提供」などと重ねて表明している。しかし、8月の軍事演習のようにトランプ大統領の演習中止約束まで反故にして強行される状況では何を言わんやだ。
米国が安全保障の提供に真剣ならば、シンガポール共同声明で約束した朝米関係の改善と恒久的で強固な平和体制構築のために、北朝鮮とともに行動すべきではないのか。一部で不可侵宣言、平和宣言、終戦宣言案などが浮かんでいる。宣言や声明、合意文は今までも交わされたが、言葉だけで行動に移されたことがない。朝鮮戦争を終わらせ平和体制を築くことなく安全の保障と言っても絵空時にすぎない。休戦協定を平和協定に変えるための協議に入る時期に来ているように思える。
朝鮮半島の非核化は、北朝鮮だけの非核化を意味するものではない。米国の敵対政策が終息し、核の脅威を自ら取り除いてこそ北朝鮮の非核化も現実化する。
朝米実務交渉の再開を控えて、米国の専門家と文在寅政権の閣僚は北朝鮮が非核化ロードマップを作成すべきだと主張している。ロードマップは「核施設の申告」「核リスト」の提出などを前提にするもので、トランプ大統領が「誤り」と批判した「リビア方式」に沿った主張だ。
勘違いすべきではない。米国は北朝鮮非核化のための「裁判官」ではない。朝鮮半島非核化の当事者で、北朝鮮に一方的に指示する立場になく、その権限も力もない。
再開される実務交渉で、北朝鮮とともに朝鮮半島の平和に向かって歩むのか、背を向けるのか、米国の賢明な選択を期待したい。(M.K)
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