M.K通信 (50)硬直化したアプローチ

ストックホルム朝米実務交渉(10月4日~5日)の決裂は、米国の対北朝鮮アプローチが約20年前にネオコンが作り上げたCVIDに縛られ硬直化していることを如実に示した。 CVIDはブッシュ政権下で当時のボルトン国務次官などネオコンが作り上げた強硬策。 6者会談で北朝鮮に「先非核化」を強いたが破綻し核開発を招いた敵対政策だ。 その目的は北朝鮮政権の崩壊にあったことは言うまでもない。

ストックホルム朝米実務交渉直前、CVID、「リビアモデル」を強行に主張し朝米関係の改善を妨げていたボルトン安全保障担当補佐官が更迭され、トランプ大統領の「新しい方法」発言によって期待が高まっていた。 しかし蓋を開けてみれば「新しい方法」どころか一方的な非核化要求が再び持ち出され朝米実務交渉は決裂した。

北朝鮮外務省が6日に発表した談話によれば、実務交渉で米国は「米国側は実務交渉で新しい提案はないと言わんばかりに既存の立場に固執し何の打算も担保もなしに連続的で集中的な協商が必要という主張を繰り返した」という。

談話が指摘した米国の「既存の立場」とは「リビアモデル」のことで、事前に米マスコミが報じていた「寧辺+α」対「国連の石炭・繊維輸出禁止制裁の36カ月間一時的猶予」のことのようだ。 ハノイ会談で持ち出した「ビックディール」と軌を一にする傲慢な一方的非核化論に他ならない。 また「連続的で集中的な協商」とは、最近「ワシントン消息筋」がマスコミに流している「定例協議機構」を指すのだろう。 この「定例協議機構」についての報道を総合してみると、主眼は北朝鮮非核化のためのロードマップ作りにおかれており、北朝鮮の核実験場の廃棄、ICBMの実験中止など非核化措置に答える相応の措置とはかけ離れている。 さらにこの「定例協議機構」は米大統領選挙を控え対話を維持し、北朝鮮のICBM実験の再開などを封じ込めることを狙ったものだ。 北朝鮮が「米国が約束を守らないのにわれわれだけが約束に縛られる理由なない」、と再三にわたって警告して来たことは周知の事実だ。 もし北朝鮮がICBM発射実験などの再開に踏み切れば大統領選挙に望むトランプ大統領にとって大きなマイナス要因になることは明らかだ。

結局、米国が実務交渉で持ち出した「創意的なアイディア」とは、「リビアモデル」の焼き直しに過ぎなかったわけだ。 北朝鮮外務省が談話を発表して「国内政治日程に朝米対話」を利用しようとしていると非難したのは当然のことであろう。 金明吉北朝鮮主席代表が時間稼ぎには応じられないと突き放し、実務交渉は決裂すべくして決裂したというのが真相のようだ。

シンガポール首脳会談からまもなく1年半になる。 今年2月にはハノイで首脳会談が行われたが決裂した。 今回の実務交渉はハノイ会談決裂で傷ついた朝米関係を修復して、共同声明実行に向けた関係構築を目指したものだが、再び決裂し、朝米関係は共同声明発表以前の対立に戻りかねない状況に陥っている。

その原因は米国がシンガポール共同声明で約束した「新しい朝米関係の樹立」と「朝鮮半島の非核化」とは異なり、対北朝鮮敵対政策を是正せず、朝米交渉の焦点がまるで北朝鮮の非核化にあるかの如く世論を欺き、北朝鮮の体制崩壊を画策していることにある。

朝米交渉は北朝鮮の非核化のために行われているのではない。 朝鮮戦争に端を発する朝米間の根深い敵対関係を解消して、新しい朝米関係と恒久的な平和体制を構築して、朝鮮半島の非核化を実現するところに目的がある。 朝米交渉の目的が北朝鮮の非核化にあるかのような認識は、米国と追従する韓日の強硬勢力によるプロパガンダが作り上げた錯覚に過ぎない。 米国は自ら朝鮮半島有事に対応し、朝鮮半島に核兵器を展開して北朝鮮の安全を脅かしている。 にもかかわらず、自らの核兵器は棚に上げて、米国の核の脅威から国を守るために開発した北朝鮮の核兵器だけを問題視している。 盗人猛々しいとはこのことで、米国は北朝鮮の非核化を監督する「裁判官」ではなく、その権限も力もない。 錯覚すべきではない。 米国は自らが朝鮮半島に持ち込んだ核兵器を除去する義務を負った被告である。 米国のプロパガンダに洗脳されることなく、被告であることをしっかりと認識すれば朝米交渉の真相が見えてくる。

戦争は敵対行為の最たるものだ。 朝鮮戦争は北朝鮮と米国間の戦争で現在も冷戦が続いており和平は実現していない。 和平とは、国が争いをやめて仲直りし平和になることを指す。 ネオコンをはじめとする対北朝鮮強硬勢力は和平の意味を知らないようなので、是非辞典を引いてみることをお勧めする。

北朝鮮と米国が話し合うのは争いをやめて仲直りするためで、朝米交渉の本質は和平交渉だ。 平和を実現するために話し合っているのだ。 にもかかわらず米国は戦争をやめて仲直りするのではなく、対話を北朝鮮非核化のテコに利用としている。 北朝鮮の核兵器は、戦争状態の中で米国よって加えられた核の脅威に対抗するために開発された抑止力で、一方的破棄の対象ではない。

今一つ指摘しておくべきことは、朝米間の話し合いが一向に進まないのは、北朝鮮に「非核化の意思がない」ためでもなく、北朝鮮が「妥協しない」ためでもないということだ。

ハノイ会談で北朝鮮が寧辺核施設を破棄することを提案しながら、相応の措置として民生部門と人民生活のかかわる制裁の解除を求めたことは周知の事実だ。 会談決裂後に李容浩外相と崔善姫第一外務次官は記者会見で▲非核化措置を講ずるためにより重要なのは安全担保の問題であるが、米国がまだ軍事分野の措置を講じることが負担であると見て部分的な制裁解除を寧辺核施設破棄の相応措置として提案した▲寧辺のプルトニウム、ウラニウム施設を含むすべての核施設の廃棄を提案したのは歴史上はじめのことーと強調した。 北朝鮮側が主張したように、核開発の中心施設である寧辺核施設の破棄提案は、北朝鮮の非核化意志を示した大幅な譲歩案であった。 「北朝鮮に非核化の意思がない」との強硬派の主張は、一方的な非核化を迫るための詭弁に過ぎない。

この時の記者会見で崔善姫第一外務次官は「米国は千載一遇のチャンスを逃した」と述べたが、先の実務交渉で北朝鮮側から寧辺核施設の破棄提案がなされることはなかった。

北朝鮮が「国家核戦力を完成」させ、SLBMまで保有するに至った状況の変化にもかかわらず、米国が20年前にネオコンが作ったCVID、「リビアモデル」にこだわる硬直化したアプローチを続ける限り、朝米関係は一歩たりとも進展しえない。

去る8月23日にポンペオ国務長官の制裁強化発言を非難する談話を発表した李容浩外相は、米国が制裁でわれわれに相対しようとするなら「われわれは米国の最も大きな『脅威』として長い間残り、米国が非核化のために何をすべきかを必ず悟らす」と述べている。 「最大の圧迫」という制裁からすでに2年。 追加制裁も数多くなされたが、強硬派が今か今かと待ち焦がれる北朝鮮の混乱の兆しは全くない。 米国が制裁の効果を信じて待つ間に北朝鮮の核抑止力も進化し続け、より大きな米国の脅威となることは避けられない。(M.K

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元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。