M.K通信 (55)進退窮まる超大国

朝鮮が「新しい計算法」を示すことを求めた期限である2019年12月31日が目の前に迫っている。 朝鮮は年末までに米国が敵対政策を清算して「新しい計算法」を示さないなら「新しい道」に進むと警告していることは周知の事実だ。

「新しい計算法」の要求は、米国が「ビッグディール」を持ち出しハノイ会談を決裂させたことに対応するもの。 朝鮮側は「ビッグディール」を「先武装解除、後体制転覆」の試みで、「国家の根本的利益に反する要求」と非難、朝鮮が受け入れ可能な現実的提案を準備するよう求め続けてきた。

しかし年末まで1か月を切った現時点において、米国は「新しい計算法」を示す準備ができていないようだ。 年末が近づくにつれて「新しい計算法」を求める朝鮮の攻勢が強まっているが、米国はこれに答えられず時間稼ぎのための実務交渉の再開を求め続けている。 膠着状態を打開する決断力を発揮できずに立ち往生している米国の姿は進退窮まった超大国の苦悩を映し出しているようだ。

朝鮮側が求め続けている「新しい計算法」の核心は、朝鮮の安全と発展を阻害する敵視政策の撤回だ。

金英哲朝鮮アジア太平洋平和委員会委員長は11月18日に発表した談話で「非核化協商の枠内で朝米関係の改善と平和体制の樹立のための問題を同時に討議するのではなく、朝米間に信頼構築がまず先行され、我々の安全と発展を阻害するあらゆる脅威が綺麗に除去された後にこそ、非核化問題を論議することができる。 米国は、対朝鮮敵視政策を撤回する前には非核化協商について夢も見てはならない」と指摘した。 極めて注目される指摘で、敵視政策が撤回されなければ非核化交渉に応じない姿勢を鮮明にしたものだ。 米国の敵対政策、核の脅威から国を守るために核兵器を開発した原点に立ち返ってみれ当然の立場の表明に過ぎない。

非核化交渉の枠内で、朝米関係の改善、平和協定の締結を進めようとしていた朝鮮がここにきて先敵視政策撤回を鮮明の打ち出したのは、共同声明を実行しようとせず敵対政策を露骨化して朝鮮を屈服させようとした米国の傲慢な圧力と誤った判断が招いた当然の結果だ。 ハノイ首脳会談で朝鮮が民生部門の制裁解除と引き換えに寧辺核施設の廃棄を提案したのは周知の事実だ。 当時、李容浩朝鮮外相が指摘したように、当時の時点で朝鮮側が示すことができる「最も大きな歩幅の非核化措置」で、米国が軍事的措置を取ることは負担になるとの判断から「部分的な制裁解除を相応の措置」として打ち出したもので、朝鮮側のトランプ大統領の立場にも配慮した大幅な譲歩案であった。

にもかかわらず、米国は朝鮮側の意図を誤読し「ビッグディール」を持ち出した。 朝鮮側が受け入れるはずもない「リビアモデル」をコピーした「ビッグディール」で朝鮮を屈服させることができると考えたのなら愚か極まりない。 当時崔善姫第1次官が寧辺核施設を丸ごと廃棄するという提案は二度とないことを示唆し、米国は最大のチャンスを逃したと強調したことが思い出される。 米国はハノイ会談以後も合同軍事演習を中止するとのトランプ大統領の約束を一度ならず二度三度と反故にし制裁を強化することで朝鮮の一方的非核化を迫ってきた。 朝鮮側が米国に敵視政策の撤回を突きつけ、「新しい計算法」の提出を時限付きで求めるに至ったのは、自らの力を過信する超大国の驕りと傲慢、朝鮮の力と意図を誤って判断した愚かさが招いた当然の結果と言えよう。

金英哲朝鮮アジア太平洋平和委員会委員長に続き、崔善姫第1次官もロシア訪問中の11月20日、「核問題は、今まで置かれていた実務者協議のテーブルからはもう下ろされた」 「非核化をめぐる交渉の再開にはアメリカが敵視政策を撤回することが大前提である」と述べている。 現時点で米国が敵視政策撤回を決断しない限り朝米非核化交渉は開かれず、朝鮮側は「新しい道」に進むことになる。

朝鮮中央通信が4日に伝えたところによれば、朝鮮労働党中央委員会常務委員会は12月下旬に朝鮮労働党中央委員会第7期第5回全員会議を開くことを決定した。 「朝鮮革命発展と変化した内外の情勢」に対応する「重大な問題を討議決定する」ことに目的があり、「新しい道」の中身が討議されることは間違いなさそうだ。

去る11月13日朝鮮国務委員会スポークスマンは、「対話には対話で、力には力で対応する」のは揺るぎない意志と強調しながら「我々が止むを得ず選択することになるかもしれない『新しい道』が『米国の未来』に今後、どんな影響を及ぼすかについて深く考えてみるべきであろう。 現在のような情勢の流れを変えないなら、米国は遠からずさらなる脅威に直面して苦しく悩まされ、自からの失策を自認せざるを得なくなるであろう」と指摘した。

金正恩委員長は去る4月12日に行った施政演説で、朝米の「対峙は長期性を帯び」るとの判断を示しており、米国が「新しい計算法」を示さず敵対政策を追及すでことは想定内のことであったと思われる。 このため白馬に乗って白頭山に登った10月ころから「新しい道」に入る周到な準備を重ねてきたようだ。

「新しい道」についてあれこれ推測することに意味はないが、現時点ではっきりと言えることは、核抑止力の一層の強化が「新しい道」の柱に据えられることは間違いあるまい。 またトランプ大統領の「軍事力行使」発言に対して、朝鮮人民軍の朴正天総参謀長が談話を発表(4日)して、もし米国が「武力を使用するならわれわれも任意の水準で迅速に相応する行動に出るということを明確にする」と指摘したことも「新しい道」の方向を示唆している。

朝鮮に対する「軍事力行使」はこけおどしに過ぎず、米国にとって現実的選択ではない。

理由は明らかだ。 第2次朝鮮戦争を起こしても勝利する見込みがないためだ。

25年前の1994年クリントン政権が朝鮮への軍事攻撃を検討した際、当時のシュリガシュビリ統合参謀本部議長は「戦争が勃発すれば、開戦90日間で▲5万2千人の米軍が被害を受ける▲韓国軍は49万人の死者を出す▲戦争費用は610億ドルを超える。 最終的に戦費は1千億ドルを越える」というブリーフィングしたと伝えられる。 当時カーター元大統領の訪朝で戦争が回避されたかのように描写されたが、真の理由は米国に勝利への確信がなかっただけの話だ。 また、オバマ政権下の2016年3月17日米上院軍事委員会聴聞会で第二次朝鮮戦争勃発とかかわり、当時のジョゼフ・ダンフォード統合参謀本部議長は「朝鮮半島で戦争が勃発した場合、北朝鮮が主導権を握ることもあり得る」と述べ、マーク・ミレー陸軍参謀総長は「北朝鮮とは戦争できない」とはっきりと述べていた。

「国家核戦力を完成」させた朝鮮の軍事力は2016年とは比較にならない。 朝鮮の核戦力はICBMとSLBMを備え相互確証破壊のレベルに達しており、単距離飛翔体はミサイル防衛網では対処できない水準にある。ロシア、中国と並び米国に対する核攻撃可能な3か国の一角を占める朝鮮との戦争が非現実的なのは米国が誰よりも熟知しているはずだ。

できもしない「武力行使」をちらつかせてもいたずらに緊張を煽るだけで突破口にはならない。 反対に進退両難の苦境を浮き彫りにするだけだ。

米国の出口は、朝鮮に対する「先武装解除、後体制転覆」の試みを捨てて朝鮮との戦争を終わらせ平和協定締結に向かうことにしかない。トランプ大統領の英断が期待される。(M.K

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元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。