脅迫や軍事的威嚇で目的を達しようとするのは愚かだ。 思慮も分別もなく強権を振り回してみても得られるものはない。 朝鮮が今年の末を境に「新しい道」に進むことを思いとどまらせようとする米国の脅迫と懐柔は、超大国が急場をしのぐために演じている悪あがきに見える。
朝鮮が「新しい道」に進むことを思いとどまらせるただひとつ方法は、米国が、朝鮮が求める「新しい計算法」を示すことしかない。 残る時間はわずか2週間程度しかなく期待を持つのが間違いだろう。
シンガポール首脳会談で朝米共同声明にサインしたにもかかわらず、共同声明の約束を違えた米国の傲慢で横暴な行動が招いた結果だ。 新しい朝米関係の樹立、朝鮮半島の強固で恒久的な平和体制の確立、朝鮮半島の非核化は共同声明の核心事項だ。 しかし米国はこの核心事項を何一つ実行しようとしなかった。 行ったことは、米韓合同軍事演習を中止するとの約束を破り演習を強行したこと、対朝鮮制裁を強化したこと、以外に何もない。
この過程で米国が追及したのは、朝鮮の「先武装解除、後体制転覆」だ。 米国の狙いはハノイ首脳会談で持ち出した「ビッグディール」に集約された。 リビアでの成功体験に基づいた「リビアモデル」の焼き直しで、朝鮮に「無条件降伏」を迫る横暴な要求が書き連ねられている。 もしこれが実現可能と考えたのなら、知的レベルが小学生にも満たない愚かさの表れだ。
朝鮮がハノイ首脳会談で寧辺核施設の廃棄を一部の制裁解除を条件に提案したのは周知の事実だ。 米国の権威ある核専門家であるジークフリード・ヘッカー 博士は、寧辺核施設は朝鮮の「核能力全体の70%から80%ほどを占めている」との見解を示している。 自らの核能力の7~8割りを民生部門の制裁解除と引き換えに破棄するとした提案は、誰が見ても朝鮮の非核化に対する真摯な姿勢を示した大幅な譲歩安であった。 この提案を受け入れず「ビッグディール」に固執した米国の狙いは明らかであった。 極端に表現すれば米国は「北朝鮮の非核化」ではなく朝鮮の体制転覆を追及したのだ。 できもしない朝鮮の体制転覆を追及するあまり、核能力の7~8割りにもおよぶ「北朝鮮非核化」のチャンスを自ら捨て去ったのが米国のハノイ首脳会談であったわけだ。
これに対する朝鮮の対応は断固たるものであった。 「ビッグディール」を一蹴して、「新しい計算法」を示すことを時限付きで要求し、米国が応じなければ「新しい道」に進む姿勢を鮮明にしたのだ。 米国が朝米非核化交渉を通じて体制転覆を策していることが白日の下にさらされた以上、当然の選択であったと言えよう。
米国は10月初旬に行われたストックホルム実務交渉でも未練がましく「ビッグディール」にしがみつき、会談決裂を受けて朝鮮が「新しい道」への歩みを踏み出すと慌てふためいて阻止に躍起になっている。 トランプ大統領は威嚇のつもりか「軍事力の行使」(3日)を云々し「すべてを失う」(9日)などと恫喝している。 またポンペオ国務長官は米国の約束違反を棚に上げて朝鮮に「約束を守れ」とうそぶき(10日)、11日には安保理を招集して「制裁」を云々している。 さらにはマスコミと専門家を通じて「レッドライン」を持ち出すかと思えば「武力行使」説を流布している。
醜い悪あがきだ。 2017年に核実験とICBM発射を「レッドライン」と騒ぎ立てあっさり破られたことをもう忘れてしまったようだ。 また、冷戦崩壊直後にクリントン政権が朝鮮に対する武力攻撃を真剣に検討したときがあった。 核兵器を開発する前のことだが、勝てる見込みがなく行動を起こせなかったことがある。 ブッシュ政権、オバマ政権下でも同じようなことがあった。 「国家核戦力」を備えた朝鮮に対する「武力行使」はこけおどしに過ぎない。 朝鮮が「対話には対話で、力には力で対応する」(11月13日、朝鮮国務委員会スポークスマン)と表明したのは一度や二度ではない。
朝鮮が進むことになろう「新しい道」はどのような道になるのか?
様々な推測がなされているが、すでに朝鮮は「新しい道」への歩みを始めたように見える。
その一つは朝鮮が米国が敵対政策を撤回しない限り非核化交渉は行わないとの姿勢を明確に打ち出したことだ。 今までは非核化交渉の枠内で朝米関係の改善と平和体制の構築を実現しようとしたとすれば、これからは朝鮮の安全と発展を脅かす米国による脅威の除去を優先させるということだ。 金英哲朝鮮アジア太平洋平和委員会委員長、崔善姫外務第1次官、金星国連駐在大使などが立て続けに「米国は、対朝鮮敵視政策を撤回する前には非核化協商について夢も見てはならない」「非核化はすでに交渉のテーブルから消えた」などのコメントを繰り返していることを見れば明らかだ。
12月7日に朝鮮の国防科学院が西海衛星発射場で行った「重大試験」は、核抑止力の向上が「新しい道」の今一つの重大な内容であることを示唆している。
国防科学院は「重大試験」結果に対する発表(8日)で、試験の成功は「朝鮮民主主義人民共和国の戦略的地位をもう一度変化させる重要な作用をする」と指摘した。 試験の内容は公表されていないが、衛星発打ち上げのためのエンジン燃焼実験、固形燃料によるICBMエンジンの燃焼実験ではないかと推測されている。当たらずと雖も遠からずで、核抑止力向上にかかわる実験であったことは間違いないようだ。
朝鮮の核戦力はICBMとSLBMをを備え相互確証破壊のレベルに達しており、米国のミサイル防衛システムでは防ぎきれない水準にある。 核抑止力の質的、量的充実は進めば進むほど、すでに形骸化しつつあるNPT体制を無力化し、米国の核覇権を大きく揺さぶることになろう。
大陸勢力と海洋勢力の利害が交差する戦略的要衝に位置する朝鮮は米国の軍事保護領に過ぎない韓国とは異なり、過去のように列強の角逐に翻弄され右往左往する弱小国家ではない。自主路線を生命と考え、それを力で裏付ける「国家核戦力」を備えた、要衝に位置する強国だ。 超大国と対峙し一歩も引かない朝鮮の姿勢は、米国の専横に眉を顰める第3世界の多くの国々から期待と信頼を集めており、これらの国々との政治、軍事、経済的協力が「新しい道」の重要な資産になろうことは想像に難くない。
米国は自慢の「史上最強の制裁」では朝鮮を追い詰めることができないことを早く悟るべきだ。 「火星15」の試験発射を契機に課された、禁油を含む「制裁」から2年が過ぎたが、制裁勢力が願う経済の疲弊と混乱はまったく見られない。 2014年から最近まで国連安保理の対北朝鮮制裁委員会の専門家パネルで活動していた、ステファニー・クライン・アルブラント氏が去る10月7日「38ノース」への寄稿文でトランプ大統領の「最大圧迫」キャンペーンがもはや「廃車寸前」であると指摘していた。
朝鮮の「新しい道」には「史上最強の制裁」を無力化させてきた自立自強の経済建設路線も含まれよう。
朝鮮が「新しい道」に進むのを阻止して、現状の実のない対話を続け大統領選挙までの時間を稼ごうとするトランプ大統領の思惑は大きな壁に直面している。 「新しい計算法」を示し朝鮮に対する敵対政策を撤回しなければ、大統領再選に赤信号を灯すことになるかもしれない。(M.K)
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