「アメリカ人は国を破壊し、大混乱を引き起こした。 彼らは、電気システムとインフラストラクチャプロジェクトの構築を完了することを拒否した。 彼らは、イラクが石油輸出の50%を放棄するのと引き換えに、イラクの再建支援を交渉しようとした。 私は拒否した。 私は中国に行くことを決め、中国との間で(インフラと電力建設などの)重要で戦略的な合意を結んだ。
中国から帰国した後、トランプ大統領は私に電話で契約をキャンセルすることを要求した。 私は拒否した。 彼は私を打倒する大規模なデモが起きると脅した。 実際、デモが始まった。 トランプ大統領は電話で協力しない場合は、状況をエスカレートさせると脅迫した。 海兵隊狙撃兵を一番高いビルと米大使館の屋上にに配置して、デモ隊と治安部隊の両方を標的にして殺害した。 私に圧力をかけ、彼の希望に応じ、中国との合意を取り消そうとする試みだった。
私は応答せず辞表を提出した。 アメリカ人は今でも中国との合意を取り消すことを主張している。 デモ参加者を殺した者は第三者であると国防相が公式に確認した。 トランプ大統領はすぐに私に電話をかけてきて、この第三者について引き続き話をするなら自分と国防相を殺すと脅した。」
イラクのアデル・アブドルマハディ暫定首相の発言である。
イラン革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ部隊」のガセム・ソレイマニ司令官らが殺害されたことを受け、1月5日にイラク議会が臨時招集されイラクに駐留する米軍の撤退を求める決議を可決したのは周知の事実だ。
上記の発言内容は、臨時議会に出席して米軍の撤退を支持すると表明したアデル・アブドルマハディ暫定首相の演説の一部である。
米国の、恫喝外交と言える露骨な脅迫の実態を赤裸々に暴露したアデル・アブドルマハディ暫定首相の発言はかなり衝撃的だ。
この発言を報じたWhitney Webb(チリに拠点を置くMint Press Newsジャーナリスト。 彼女は、グローバルリサーチ、エコウォッチ、ロンポールインスティテュート、21世紀ワイヤなど、いくつかの独立したメディアアウトレットに貢献している)によれば、ワシントンと密接な関係を持つモハメッド・アル・ハルブシ (下院議長)によって、暫定首相演説のビデオフィードがカットされ闇に葬られた。
しかし幸いにも、フィードがカットされた後、出席していた国会議員がアブドルマハディの発言を書き留め、それをアラビアのニュース 配信会社Ida’atに伝えた。 冒頭の引用文はWhitney WebbがThe Alt Worldに発表した記事(http://thealtworld.com/whitney_webb/)に基づき、他に散発的に報じられた発言内容を加味して筆者が構成したものであることをお断りしておく。
Whitney Webbは、アブドルマハディ暫定首相に脅威を与えたのは、必ずしもトランプ自身ではなくマイク・ポンペオやジーナ・ハスペルであったかも知れないとの説を紹介しながら、脅威を与えた張本人がだれであれ「それは絶対に米国の政策と一致するだろう」との見解に重きを置いている。
Whitney Webbは、かなり衝撃的なアブドルマハディ暫定首相の発言にみられる米国の恫喝外交を「ギャング外交」と呼び、その根底にペトロダラー(オイルマネー)があると指摘している。 米国は主要産油国に石油の取引をドルで行うことを求め、その代償として該当国の支配体制を軍事的に保護することを約束、ドルは米財務省の証券、兵器を購入させ回収するシステムを作り上げているが、このシステムがペトロダラーで、ドル基軸通貨制を支えており、軍事力とともに米国覇権の柱だ。
イラク政府が石油取引における主権の確立を推進して中国との石油取引に打って出たことが米国の怒りに火をつけたことは想像に難くない。 なぜなら米国の強欲な要求に背を向け中国と取引することは、ペトロダラーを拒否し基軸通貨としてのドルの地位を揺るがすことに繋がるからだ。
米国が、石油取引をユーロで行おうとしたイラクのフセイン体制、金貨ディナールをアフリカの基軸通貨にし、石油取引の決済に使おうとしたリビアのリビアのカダフィ体制を軍事力で打倒したのは周知の事実だ。 フセインやカダフィのように、産油国が、米国が乱発する制裁に対抗して、石油取引をドルでなく、金保有に裏付けられた他の通貨、もしくはインフラ整備などのサービスに置き変えればペトロダラーのシステムは機能しなくなり基軸通貨としてのドルは崩壊する。
地域大国で米国の中東覇権に抵抗するイランの体制転換をもくろみ、中国との石油取引に踏み出したイラクにギャングのような要求をつきつけるだけでなく、シリアの油田を占拠し、世界最大の石油埋蔵国で、人民元中心の通貨バスケットで石油取引を行おうとするベネズエラのレジームチェンジを執拗に追及しているのも、危機に追い込まれたペトロダラーを守り、ドル基軸通貨体制の崩壊を阻止、米国の覇権を固守するための悪あがきに見える。
米国がソレイマニ司令官を殺害したのは、同司令官がイラクの石油主権確立を支援し占領米軍の撤退を模索するイラク政府を支援したためとの指摘がある。 ソレイマニ司令官をテロと非難される極端な方法で除去せざるを得なかったのは、この地域で否応なしに進む、米国の覇権が直面した危機の裏返しに過ぎない。
中東とともに東アジアも米国の派遣が大きく揺らいでいる地域だ。
いうまでもなく、「国家核戦力を完成」させた朝鮮を一方的な非核化に追い込み体制転覆を図ろうとした米国の狙いは破綻を余儀なくされている。 昨年末に開かれた朝鮮労働党の会議で「正面突破戦」が決議されたことで、米国の朝鮮に対する圧力外交、ギャング外交はいかなる形であれ機能し得なくなっている。
敵対政策の撤回がなければ引き続き戦略兵器を開発し核抑止力を強化するというのが朝鮮の立場だ。 これに対して米国は「協議再開」をむなしく繰り返すだけでなす術を失っているようだ。
朝鮮半島の平和と自主的な統一強国を目指す朝鮮と、大陸勢力と海洋勢力の利害が交差する朝鮮半島の支配をもくろむ米国との戦いについては別稿でより詳しく述べるつもりだが、朝鮮の核保有と決然とした対米外交が米国の核覇権を大きく揺さぶり続けるであろうことは確実だ。(M.K)
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