M.K通信 (72)北南共同連絡事務所はなぜ爆破されるに至ったのか?

防衛ライン要衝に

北南共同連絡事務所が置かれた開城工団は、朝鮮半島有事の際、米韓軍が北上する西部戦線の最上のルート上にある。 板門店から非常に近く、朝鮮側からすれば、米韓軍の進軍を防ぐ防衛ラインの要衝だ。

そのため2000年の開城工団設立時、朝鮮の最前線防衛部隊は現在の位置に工団を設立することに反対した。

16日に発表された朝鮮人民軍総参謀部の公開報道の、「非武装化された地域に軍隊が再進出して前線を要塞化して・・・」との指摘は、敵の進軍を食い止める前線基地、要塞化された陣地が、現在の開城工団地域に築かれていたことを想起させる。 当時朝鮮人民軍の最前線防衛部隊は、最高司令官であった金正日国防委員長の命令で、要塞化されていた基地、陣地を解体して10㎞後方に防衛ラインを再構築した経緯がある。 当時南側でも開城工団設置交渉に当たった少数の人物はこの経緯を知っていたはずだ。 現在、当時を知る人が南側政府の担当者の中には殆どいないのではないかと推察される。

最前線の要衝に開城工団を設置することは、金正日国防委員長と金大中大統領による首脳会談の合意で、両指導者の信頼関係を基礎に成り立った民族協力事業だ。 あらためて確認するまでもないが、開城工団は軍事境界線の北側にあり、この地区の主権は北側にある。 南側に任されているのは工団の運営である。

北南首脳会談での合意に基づき、2003年6月に着工、翌04年末から開城工団入居企業の生産がはじまった。 しかし、生産開始から10年にも満たない2016年2月、朴槿恵政権によって中断され今日に至る。

裏切られた文在寅政権に対する期待

文在寅政権は朴槿恵元大統領を弾劾したローソク革命の結果成立した。 文在寅大統領が現与党顧問を務めていた朴槿恵政権末期、挙国中立内閣を提案してローソクデモに水を差し顰蹙を買ったが、文在寅政権の発足によって、旧保守政権が残した積弊清算と開城工団、金剛山観光の再開を含む北南関係の改善に対する期待は否が応でも高まった。

しかし、2018年2度にわたる首脳会談合意の興奮もつかの間のことで、文在寅政権に対する期待は裏切られた。

原因は板門店宣言、平壌宣言の約束を守らない文在寅政権にある。 文在寅政権が約束を守らず北南関係破綻の危機を招いたということは南側の進歩、民主化勢力の共通した認識で、多くの国民も現政権の約束違反を指摘している。

米国の「承認」を理由に首脳会談合意を実行せず、「制裁に抵触しない範囲」で南北協力を進めると繰り返している。 「制裁に抵触しない範囲」での協力というのは実際には成り立たないのに・・・。 「ビラ散布を含めた敵対行為の中止」に合意したにも関わらず、昨年に10回、今年には3回にかけてビラ散布を見て見ぬふりをしてきた姿勢に、多大な迷惑を被る前線地域の国民をはじめ多くの市民は眉をひそめた。

「脱北者団体」によるビラ散布は北側に外部の情報を送り込む米国の「情報工作」で、資金もNEDが負担していることは秘密ではない。 「政治と帝国に関する独自の調査ジャーナリズム」として知られる「THE GRAYZONE」のアシスタントエディターで著名なジャーナリストであるベンノートン は、米国は韓国に「北朝鮮の民主主義と人権のためのネットワーク」を築き「北朝鮮に対するハイブリッド戦争」を仕掛けていると指摘している。 ビラ散布を担っている「自由北韓運動連合」などもここに含まれている。

表面では笑い、裏では米国の「ハイブリッド戦争」に加担していることが、2年にもわたりビラ散布を黙認してきた根本原因、というのが北側の見方だ。

「資本主義体制への統一に」

この見方には根拠がある。

ひとつは文在寅政権の統一政策にある。 統一部が今年から「ドイツ式統一」を韓国の統一政策として、教育機関をはじめ各機関に配布している。 これは文在寅政権の統一政策が、「吸収統一」であることを示している。

ふたつ目は、文在寅大統領自身が北が南の資本主義体制に取り込まれる統一になるべきだと述べている。 大統領就任後の2017年1月に出版された対談集「大韓民国に聞く」で「統一は結局資本主義体制への統一になるわけで、北の人たちは苦難を強いられることになる」と述べている。 朝鮮側政府、人民が激怒する内容だ。

文在寅大統領が首脳会談で約束した金剛山観光や開城工団の再開に背を向け、「敵対行為」の中止約束を守らなかった行動の根底に、「吸収統一」への狙いが潜んでいた事を否定することはできない。

敵対行為への報復

金剛山観光や開城工団の再開なしに、北南共同連絡事務所に固執する南側の姿勢も理解しがたい。 協力事業を再開しなければ北南共同連絡事務所は存在しても開店休業を避けられないからだ。

朝鮮側からすれば、開城工団が中断し再開の展望もない状態で、防衛ラインの要衝に位置する連絡事務所は、米韓軍進軍の足がかりにしか見えない。 実際に昨年8月に強行された米韓合同軍事演習では、「斬首作戦」と占領地域での住民統治訓練までおこなわれている。

協力事業の再開には背を向け、北南共同連絡事務所を大きな成果であるかの如く誇示する文在寅政権の姿勢は偽善的で、役割のない連絡事務所が防衛ラインの要衝に鎮座し続ける理由はない。 爆破は、再三にわたる警告にも関わらず敵対行為を続ける文在寅政権に対する報復だ。

重ねて指摘して置くが、開城工団地区は朝鮮の主権下にある。 韓国側は「財産権」を云々し始めているが、財産に当たる設備などは持ち帰ればよいことだ。

金剛山も同様だ。 観光地区を造成するために朝鮮人民軍は要衝を解放した。 金剛山では昨年から北側が南側に施設の撤去を求めている。

協力事業再開が不可能なら「非武装化された地域に軍隊が再進出して前線を要塞化」することは避けられない。

開城工業団地の韓国側入居企業でつくる非常対策委員会は17日、北南共同連絡事務所の爆破は「韓国政府が板門店宣言と平壌共同宣言を履行できなかったことで発生した」との認識を示し、文在寅政権に板門店宣言と平壌共同宣言の合意事項を即刻履行するよう求めた。 非常対策委員会の見解と姿勢は多くの韓国民の情緒を反映したものと見られる。(M.K

スポンサードリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

ABOUTこの記事をかいた人

元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。