朝鮮に「非核化」という武装解除を強いるべく制裁が無力化し、機能していない。
朝鮮が行ったICBM「火星砲ー17」の試験発射などを口実に米国が安保理に提出した対朝鮮制裁決議案が中露の反対で葬られた(5.26)ことは、朝鮮に対する制裁圧力が無力化していることを如実に示す象徴的事件だ。
2006年以降中露が拒否権を行使して対朝鮮制裁決議を葬ったことは初めてのことだと伝えられる。 それまで何と11件の制裁決議が全会一致で採択されていたというから、事件と呼ぶにふさわしい。
安保理全会一致で採択されてきた制裁圧力は限界に達したようだ。
制裁決議を葬る根本的要因
中露が拒否権を行使したのは、中米、露米関係の悪化が要因の一つとして考えられるが、これは根本的な要因ではない。
朝鮮は米国が中露を巻き込んで繰り返してきた敵対的な制裁圧力をはねのけ、去る2017年11月、ワシントンを照準に入れたICBM「火星ー15」の開発に成功して「国家核戦力を完成」させたことは周知の事実。
これを契機に歴史上初の朝米首脳会談が開かれるなど、朝米間の力関係が根本的に変化した。
朝鮮が宣言した「国家核戦力の完成」とは、核保有宣言であり、朝鮮が米国本土を攻撃できる大陸間弾道弾と水爆を備えた核保有国に浮上したことを意味する。 朝鮮の核保有が、朝米の力関係に根本的変化をもたらし、米国による核恫喝を形骸化させた。 米国が米本土に対する核攻撃を甘受しない限り、朝鮮に対する軍事行動を選択できなくなったことを誰が否定できるのか。 「火星ー15」に加え「火星砲ー17」、極超音速ミサイルまで開発されなおさらであろう。
朝鮮が中露とともに、米国本土を攻撃できる核戦力を備えた戦略国家に浮上したことが、米国の制裁決議を葬る根本的要因であると言ってよい。
日本による朝鮮侵略前夜に「桂・タフト協定」(1905.7)と言う米日間の秘密協定が結ばれた。 米国のフィリピン支配を日本が認めるかわりに米国が日本による朝鮮支配を認めるというもの。 列強が自国を守る力もない弱小国を取引の材料にした典型的な事例だ。 もしこの時朝鮮に日本の侵略をはねのける力があったならこの取引自体が成立しなかっただろう。
米国による核の脅威を抑止して、東北アジア情勢を管理、統制する能力を備えた朝鮮はもはや大国による取引材料足りえない。 国家間の利益が複雑に絡み合い様々な取引が横行する世界において、大国のエゴを封殺して自国の安全と利益を守るのはどのような圧力もはねのけることができる力だけである。
朝鮮の核保有が現実となった今、もともと友好国である中露が米国に従い制裁圧力に走ることに何の利もない。 朝鮮の体制崩壊を追求する米国に協力して圧力をかけることは、朝鮮半島の不安定を招くだけで、中露にとってもマイナスであろう。
自力更生と制裁との対決
朝鮮は過酷な制裁下にあっても核抑止力の開発と高度化、経済建設を進めてきた。
2年前のことだが、米軍制服組ナンバー2のジョン・ハイテン統合参謀本部副議長(当時)は、朝鮮の新型ミサイルなどの開発について「世界最速級」の水準で進めているとの警戒感を示した(2020.1.17、米戦略国際問題研究所での演説)ことがある。
この憂慮は憂慮で終わらず、現実と化した。 朝鮮が今年に入って行った「火星砲ー17」や極超音速ミサイルの開発などを見れば明らかだ。
このような核戦力の高度化は、2017年末に石油製品の輸出を年間50万バレル以下に制限する過酷な制裁の中で行われた。 この制裁を米国が「史上最大の圧力」と豪語し、朝鮮がいずれ白旗を掲げると予測した。しかし現実は白旗どころか、その4年数か月後に米国本土を標的にしたより性能が向上した「火星砲ー17」を見ることになった。
金正恩総書記は2019年末に行われた党会議で、「世紀を継いできた朝米対決は今日に至り自力更生と制裁との対決に圧縮され、明白な対決の構図を描いている」としながら「自力更生の威力で敵の制裁封鎖策動を総破綻させるための正面突破」戦略を提唱した。
自力更生と制裁の対決は自力更生の勝利で推移し、制裁は朝鮮の核高度化を遅らせることも、経済を疲弊化させることもできなかった。
米国が「史上最大の圧力」と豪語した禁油制裁は国家経済の生命線であるエネルギー制裁で、工業だけでなく農業生産にも重大な影響を与えかねない過酷な制裁である。
空回りする制裁
しかしどうしたことであろうか、朝鮮は制裁にビクともせず、去る2020年に朝鮮が輸入した石油製品の量は中国から4万2000バレル、ロシアから10万7000バレルに過ぎなかった(UN朝鮮制裁委員会に報告された数字)。 制裁上限の30%にも満たない量である。 にもかかわらず米国は洋上において船から船へ船荷を積み替える「瀬取り」を云々してきたが、合法的な輸入枠が70%も残っているのに、時間と経費がかかる「瀬取り」云々することがこの上なく胡散臭いプロパガンダであったことは明らかだ。
朝鮮が「史上最大の圧力」を打破できた要因は石油化学からの石炭化学(C1)への転換が早くから行われて来たことにある。
朝鮮の2大化学工場である興南と南興化学で2009、2010年にかけて石炭ガス化プラントが完成したことは秘密ではない。 特に朝鮮の石油化学を代表する工場であった南興の石炭化学への転換は自力更生のたまものであった。
石炭から燃油も肥料も、様々な石油製品も生まれる。
石炭化学への転換が行われていなかったら、100万軍隊を動かし、全国で行われている建設事業に使う輪転機材、農村になくてはならないトラクターに必要なディーゼル油の供給に大きな支障が生じたであろう。
しかし、米国が望む燃油不足によるいかなる混乱の兆しも見られなかったことは何を物語るのか。
ちなみに石炭化学のおかげで、2019年には中国からの輸入肥料が90,198トンであったが、2020年には11,400トンに激減した。
エネルギーと食料の自給自足はいかなる圧力をもはねのける力の源泉になる。
米国の「史上最大の圧力」は、朝鮮を追いつめることも、核高度化を遅延させることもできなかった。 朝鮮の経済を疲弊させ、一方的な非核化を強要することに目的があった制裁が機能せず空回りしたことは明らかだ。
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米国は今回の制裁案で、石油製品輸入上限を30%減らし、暗号資産の不法取得を口実にサイバー分野における措置を行おうとした。
しかし、石油製品の輸入上限を減らしたからと言って朝鮮に影響はなく、また、噴飯ものの暗号資産を云々しているところを見ると、制裁手段そのものが限界に達していることがわかる。
米国に朝鮮の核兵器の高度化を止める手段は何もない。(M.K)
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