「崩壊願望」捨て「ありのまま」を受け入れる時

コリョ・ジャーナル

朝鮮民主主義人民共和国という国が「すぐにでも崩壊する」と言われ続けて30年近く経つ。 実際はどうだろう。 崩壊するどころか、不倶戴天の宿敵だった超大国アメリカと対等に交渉を行おうとしている。

クリントン政権下で米国防長官を務めたウィリアム・ペリー氏は「我々は、我々がそう願う朝鮮ではなく、ありのままの朝鮮政府と交渉しなければならない」と語っている。 事実、アメリカ、韓国及び西側諸国では今日まで広く「西側が望む朝鮮のイメージ像」を作り上げ、自らを縛り付けてきた。

「悪の枢軸」「ならず者」という固定観念、「願望的朝鮮崩壊論」に囚われず、今こそ認識の転換が求められているのではないだろうか。

過去にカーター元大統領、クリントン元大統領の訪朝を仲介、現在はアメリカの主要政策決定権者にアドバイスを求められる朝鮮問題専門家パク・ハンシク教授(コロンビア大学)は、「我々が朝鮮に対して明確に知っている事はただ2つだけだと思われる。 一つは、我々が朝鮮をあまりに知らなすぎるということであり、もう一つは、崩壊したのは朝鮮ではなく、すり減るだけすり減った‘崩壊論‘だということだ。」と指摘している。

いわゆる「朝鮮崩壊論」の歴史は古い。 アメリカでは1980年代末から「時間の問題」と言われた。 1994年の金日成主席逝去時には「早ければ4日、遅くとも3年以内には崩壊する」と言われ、黄長燁亡命時には「すぐにも崩壊する雰囲気」だった。 2011年の金正日総書記急逝時は「朝鮮の崩壊が逼迫」と言われ、李明博・朴槿恵政権はまるで宗教的ドグマのように根拠のない「崩壊論」を妄信して判断を誤った。

しかし「朝鮮崩壊論」は「西側が願った朝鮮像」という虚像だった。 虚像に基づいた政策は失敗して然り。 オバマ政権時代、アメリカと韓国政府は「戦略的忍耐」という矛盾した造語のもとに無駄な時間を費やしただけで、オバマ大統領はもちろん、政権維持のために「朝鮮崩壊論」を利用した李明博・朴槿恵政権は完全な失敗者となった。

西側で言われてきた朝鮮は、「独裁政権統治下で弾圧されて苦しむ人民の国」のイメージだろう。 保守メディアが流す、断片的で歪曲されて、かつ、事実確認すらされない報道で増幅されたイメージだ。 朝鮮の社会システムに対する接近・分析はなく、断片的な情報がただ示されるのみだった。

朝鮮の真実に迫ろうとするならば、社会構造に対する捉え方を変えて、正しく理解する必要がある。

例えば、近年朝鮮国内で普及発展してきた「チャンマダン(市場)」。

チャンマダンは、個人がお金を儲けてすべてを独占するのではなく、所属単位ごとに商品を市場に売り出してその所属単位別で収益を上げる構造だ。 所属生産単位間で競争を行い、より売上を伸ばした単位が賞与金を得る仕組みになっている。 個人対個人ではなく、チームとチーム間のゲームだ。

ここでいう単位はある種の「共同組合」。 チャンマダンは資本主義的な私有財産、個人主義方法を完全に許容しているのではなく、朝鮮労働党の統制下で資本主義的要素を取り入れつつ経済成長を促す統制された市場と言える。 そう、あくまでも朝鮮式社会主義経済の一環だ。

パク教授はまた、朝鮮の政治体制を支えてきたものは、金正恩委員長や執行部のエリートではなく「朝鮮労働党員」であり、「朝鮮労働党は巨大で求心力がとても強い複合体で党員数が360万名に達する。 朝鮮の総人口が2500万人であることを考えれば、朝鮮労働党がどれだけ膨大な組織かを知ることができる。」と指摘している。

西側では労働党員=特権階級のイメージが根強い。 しかし、労働党は厳格な審査無くしては入党できず、入党後も徹底した能力主義のもと、昇進や重責就任すべてにおいて集団的評価過程を経る。 もしそのような階級が存在しているならば、言われるように民衆蜂起が起きてもおかしくないはず。

このような認識を持たず、また理解しようとせずに「そう在って欲しい朝鮮像」だけを信じて「ありのままの朝鮮」に目を背けてきた結果が、過去のアメリカ、韓国保守政権の失敗だ。

だが事態は変わろうとしている。 トランプ政権と文在寅政権の発足以降、紆余曲折はあれども、過去の失敗から教訓を得て進んでいる(変われず邪魔する者はいるが)。 その結果としての4.27の南北首脳会談と板門店共同宣言であり、来る朝米首脳会談だといえる。

日本にとっても、朝鮮との国交正常化はいずれ避けては通れぬ道。 そろそろ曇った眼鏡の替え時ではないだろうか。(Ψ)

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元記者。 過去に平壌特派員として駐在した経験あり。 当時、KEDOの軽水炉建設着工式で、「星条旗よ永遠なれ」をBGMとして意図的に流しながら薄ら笑いを浮かべていた韓国側スタッフに対し、一人怒りを覚えた事も。 朝鮮半島、アジア、世界に平和な未来が訪れんことを願う、朝鮮半島ウォッチャー。 現在も定期的に平壌を訪問している。