朝鮮東部海岸の都市、元山市で「元山葛麻海岸観光地区」の建設が急ピッチで進められている。
元山市は人口36万人の都市。 日本政府の「経済制裁」によって2006年に航路が閉ざされるまで新潟との間に貨客船「万景峰号」の定期航路があり、朝鮮訪問の玄関口となっていた。 そういった意味では、日本でも比較的馴染みがある場所と思われる。
開発対象地区周辺には、約140カ所の歴史的遺物、10カ所の砂浜、680カ所の観光名所、4つの鉱泉、数カ所の海水浴場と自然湖沼、「神経痛と大腸炎に効く330万トン以上もの泥がある療養地」等がある。
金正恩国務委員長は今年の「新年の辞」で元山葛麻海岸観光地区の建設を最短期間内に完工する方針を示したが、それから4ヶ月ほどで一連の建築物群の骨格が出来上がりつつある。
朝鮮の報道によると、元山葛麻海岸観光地区の敷地面積は数百ヘクタールに達し、朝鮮東海の名勝である名砂十里の海辺に沿いに海岸広場区域と休養区域―1、2に分けられて建設されている。
地区には10余棟のホテル、数十棟の自炊宿と民宿、そして室内遊泳場、野外舞台をはじめ、数多くの建築物が自然環境とよくマッチしながらも対象別特性と収容能力に合わせて築かれている。
また、観光客の生活上の便宜を図る施設物と海水浴場も新しく整えられており、建設には省エネ技術、エコ建築技術が導入されていると言う。
もともと、元山市を中心とする観光開発プロジェクトは2014年に発表された。 その窓口となる「元山地区開発総会社」が2015年と2016年に外国人投資家に向け発行したパンフレットには、延べ400平方㎞以上に及ぶ地区に役15億ドル(役1,690億円)規模の投資メリットがあるとしている。
開発計画で最大のものは元山市都心部の再開発。所在するもの全てを完全に取り壊した上で再建築する方針という。
朝鮮は外資に対し、14~43%の内部収益率を提示、健全な収益性を約束している。 例として、総建設費730万ドルのデパート建設計画では外資の出資比率が最大61.3%まで認められており、リターンとして130万ドルの利益を見込めると言う。
また、外国人投資家の権利は朝鮮政府が保護、資金の海外移転に制限はないとし、土地の所有は出来ないが50年間貸借できリース権の売買も出来るとしている。
計画案の中には、「観光」のカテゴリーを超えるものもある。「産業ベースで経済価値が高く、観光客や海外輸出市場を満足させる」海産物の養殖場や、照明機器工場、家具工場のほか、改修された「元山釣具」工場との合弁事業もある。 同工場の生産力は、浮き1万個、ロープ750トン、「水泳用ライフジャケット」2500個などとなっている。
ちなみに、観光開発計画の一部である葛麻国際空港と馬息嶺スキーリゾートは既に完成、平昌冬季オリンピックの際に利用されたように、運営されている事実は周知のとおり。
昨今の「国際的経済制裁」のもと朝鮮との共同事業が表面上全面禁止されている状況もあり、同開発プロジェクトには現在外資の投入は見受けられない。 しかし表立ってはいないが、EUを初めとする諸外国が朝鮮との経済協力を現在も粛々と行っている。 近い将来に朝鮮を取り巻く状況が好転した時、この元山葛麻海岸観光地区開発にも外資の大規模参加が期待できる。
朝鮮では将来的に、年間500万人以上の観光客を自国に呼び込みたいと考えている模様。
元山市は長年、在日コリアンが日本と祖国を行き来する往来窓口になってきた歴史があり、日本とも馴染みが深い。 また、松濤園国際少年団キャンプ場(2014年に再整備)、外国人専用ビーチなどがあり、古くから外国人と接する機会が多かった。 ゆえに「この地帯の当局者と住民は観光業を十分に理解しており、観光客に対してフレンドリー」(朝鮮側のパンフレット)と朝鮮側も認識している。
金正恩国務委員長は2013年、それまでの「先軍政治」から政策を変更、核武力建設と経済建設の「並進路線」を新たに打ち出した。 その路線の一環、延長線上にこの元山再開発プロジェクトはあるといえる。
朝鮮のGDPに占める軍事費の割合は世界最高額で、2004年ー2014年の平均で23%に達したという(米国務省分析)。 アメリカと対峙するためとはいえ、軍事費が国内経済に対していかに大きな負担を掛けていたのか推測できる。 それだけに、2017年11月の国家核武力完成が意味するところは非常に大きい。 軍事費を大幅に削減し民生に注力出来るからだ。
元山葛麻海岸観光地区の推進は、朝鮮の経済発展を支える有効な一手として大いに期待される。
余談ながら、元山ー新潟航路が一日も早く再開して、日本からも人と物が活発に往来出来るようになることを願いたい。
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