朝米首脳会談を間近に控えるなか、安倍首相のたっての希望で、日米首脳会談が7日米国ホワイトハウスで実に慌ただしく行われた。
南北、朝中、朝露間の両国関係が各々進展を見せ、積年の宿敵関係にあった朝米間でさえ歴史的な初の首脳会談に臨もうとしている状況下において、朝鮮半島関係国の中で唯一、半島和平を快く思わず「蚊帳の外」に置かれたしまった日本政府の焦燥感たるや、相当なものであったことは想像に難くない。 安倍首相としては藁にもすがる思いでトランプ大統領に会ったのだろう。
事実、トランプ大統領が5月24日に朝米首脳会談の延期を発表した際には、日本政府当局者間では祝賀ムードさえ漂っていたという。 安倍首相に至っては、発表後すぐさま世界で唯一「会談中止の支持」を表明するに至った。(後日、それが元で大しっぺ返し、ブーメランを食らう事になるわけだが。)
ところが、その後すぐに首脳会談開催が確定、トランプ大統領は「完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄 (CVID)」の短期実現を公式的に取り下げ、朝鮮に対する「最大限の圧力と言う言葉は使いたくない」と話し首脳会談にかける意気込みを改めて示した。
日本国内では政権危機に直結する数々の不祥事の追求を受ける中、安倍首相が人気取りの政治パフォーマンスに走るのは至極当然な事であり、政権活路としてのアメリカ訪問だ。 まして、「悪魔の北朝鮮」に対峙する「戦う姿勢」を示す事で支持を得てきた安倍首相としては、「日本のために立ち向かっている総理」と言う証拠が欲しい。
安倍首相は、自身がトランプ大統領の対朝鮮政策に影響を与えることが出来ると考えている節がある。 しかしそれは、突きつけられた現実と置かれた現状を全くもって理解できていないと言うことだ。
安倍首相はトランプ大統領に対し、朝鮮に安易に譲歩してはいけない、圧力を維持すべきだと従来どおりの主張をし、日朝間の問題である「拉致問題」を朝米会談で取り上げるよう延々と繰り返した。 トランプ大統領も(内心では辟易している事だろう)「この問題は安倍首相にとって個人的に重要な問題であると認識している」とし、朝米首脳会談で「拉致問題」について言及する事を約束した。
だが、その代償は大きかった。 会談後の記者会見でトランプ大統領が「安倍総理は先ほど軍用機や航空機、それに農産物など数十億ドルに上る米国製品を購入すると約束した」と明かしてしまったのだ。 「勝手に押しかけて来てうるさいから、『拉致問題』を一言だけ相手に伝えてやる。だからもっと金払え。分かってるよな?」という訳だ。
それと同時に、今回の日米首脳会談で対朝鮮政策での日米の温度差がはっきりと浮き出てしまった。
トランプ大統領は共同記者会見で朝米首脳会談で朝鮮戦争終結合意に調印する可能性があるとした。 これは、主要議題である「朝鮮半島の非核化」と「安全保障と相互不可侵」に加え、更に踏み込んだ内容で話し合いが行われている事の裏返しだ。 トランプ大統領は、会談は一度で終わるものではなく今後も数回行われ、上手く運べば金正恩国務委員長をホワイトハウスに招待したいとも語った。
秋の米議会中間選挙や2020年の大統領再選に向けて、外交実績をアピールしたいと言うとトランプ大統領の個人的思惑もあるが、アメリカは既に新しい時代に向けて次のステップに進もうとしている(、少なくとも今のところは)。
しかし日本政府は、未だ対朝鮮政策を転換出来ていない。 今回のホワイトハウス詣ででも、谷内正太郎国家安全保障局長が7日午前、ボルトン米大統領補佐官(国家安保担当)と会談、朝鮮のCVIDによる非核化、拉致問題について意見交換したという。 ボルトン氏が朝米首脳会談延期を謳った「トランプレター」に関与しており、彼がトランプ大統領の過度の譲歩を阻止できると信じているからだ。 だがそれはあくまで日本政府の願望であって、決して現実的ではない。 ボルトン氏は朝米首脳会談のラインから外されている。
日本では殆ど報じられていないが、トランプ大統領は共同記者会見で「日本はシンガポールに招いていない」とも言っている。
事ここに及ぶに至って、安倍首相も流石に自身が置かれた境遇に危機感を感じたか、会談後の共同記者会見で「拉致問題の早期解決のため、私は北朝鮮と直接向き合い、話し合いたい」と語り軌道修正の兆しをみせた。 今まで散々「拉致、核、ミサイル」を掲げて「圧力と制裁」を声高に叫び、朝鮮との対話を拒否してきた張本人がだ。
だが、朝鮮に対する憎悪と敵意を煽り続けてきた安倍首相が政権の座に居座っているが故に、日本は大胆な政策転換が出来ない自縄自縛にあるといえる。 日本の将来の為にも、東アジアの未来の為にも、今こそ「深思熟考」すべきではなかろうか。
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