世界中の注目を集める中で行われた史上初の朝米首脳会談。 朝鮮の金正恩国務委員長とアメリカのトランプ大統領は、「平和と繁栄を願う両国人民の念願に基づいた新たな朝米関係」を樹立するとした。
この歴史的会合を機に朝鮮半島は新しい段階に突入したと言える。 関係諸国の動きを整理してみる。
まずは朝米。 今会談を機に「積年の宿敵関係」を清算し、長期的道程で国交樹立へと信頼構を築していけるスタートラインに立った。
金委員長とトランプ大統領はシンガポールで電話番号を交換し、17日には早速電話会談を行うという。 以前には絶対に有り得ないことだ。 会談を通じて朝米両国首脳間に一定の信頼関係が生まれた事の意味は大きい。 それ以上に今後大きな意味を持つかもしれないのが、アメリカ側のキーマンであるポンペオ国務長官の存在だ。
前CIA長官だったポンペオ氏は朝鮮側と尖鋭的な敵対関係の最前線におり、一方で水面下の対朝鮮交渉を率いてきた。その過程で3月末と5月初めに平壌を訪問し、金正恩国務委員長と数回会談している訳だが、余程気に入ったのか、金委員長は「自分のペッチャン(度胸)とこんなに合う人間は初めてだ」と語ったという。
ポンペオ氏は57歳とまだ若い。 このまま順調にキャリアを積めば共和党の有力な大統領候補となる可能性がある。 かなり楽観的な捉え方にはなるが、金委員長の将来的な執権期間を考えると、ポンペオ氏の存在は朝米関係正常化への明るい材料となり得る。
朝米は「朝米関係正常化」「朝鮮半島非核化」に向けて「行動対行動」の原則で進む事を確認しており、朝鮮は先だって核実験、ロケット発射実験の中止、核実験施設の廃棄、ロケットエンジン実験の中止を発表するなど行動で示し、アメリカ側も米韓合同軍事演習の無期限停止に向け舵を切った。 朝米は着実に行動しはじめた。
朝中関係を見ると、金委員長と習近平中国国家主席が3月末、5月初めに二度の会談を行い、朝中の伝統的友好親善を復旧させ、新しい友好協力関係の発展に合意している。
中国外相が朝鮮を訪問し金委員長が面談し、朝鮮労働党の代表団が訪中、習国家主席が面談するなど、一時的に滞っていた交流が盛んに行われている。
今回、朝米首脳会談に臨む朝鮮に中国がチャーター機を提供するなど、両国関係は着実に良好に進展している事がわかる。
朝露間では、5月末にロシア外相が朝鮮を訪問し金委員長と会談、プーチン大統領の親書を手渡し金委員長の9月のロシア訪問を招請した。
また、プーチン大統領が14日、サッカーワールドカップロシア大会開幕式に参加するためロシアを訪問した金永南最高人民会議常任委員長と面談、金委員長からの親書を受け取り金委員長のロシア訪問を改めて要請、時期は朝鮮の意向を優先するとした。
両国は「戦略的で伝統的な朝ロ関係を、今後も双方の利益に合致し新時代の要求に即して引き続き発展させていくために、外交関係設定70周年(10月12日)に当たる今年に高位級の往来を活性化して各分野での交流と協力を積極化」するという合意に沿って着実に動いている。
南北関係に至っては、金正恩国務委員長と文在寅大統領の両首脳が4.27、5.26と二度の首脳会談を板門店で行い、民族自主平和統一に向けた歩みを着実に進めている。
1日に南北高位級会談を行ったのを皮切りに、14日には将官級軍事会談を開催、東・西海地区の軍通信を完全に復旧する問題で見解の一致を見た。 18日にはスポーツ会談スポーツ会談を板門店で、赤十字会談を22日に金剛山で開催する予定とになっている。
また、7日には中央アジアのキルギスで開かれた鉄道国際協力機構(OSJD)閣僚級会議で、朝鮮の賛成により韓国の加盟が可決された。板門店宣言の精神に則ったものだ。
特に韓国国内では13日の統一地方選挙で、南北和解を掲げる文在寅大統領の与党「共に民主党」が歴史的大勝を収めた。 これは文政権が板門店宣言を推し進めていく上で大きな弾みとなる。
韓国、中国、ロシアはいずれも朝米首脳会談の成功を歓迎・支持している。 しかし、「異次元の圧力外交」の日本だけは情勢の変化について行けず、完全に取り残されてしまった。
日本は朝米首脳会談で拉致問題を取り上げてもらおうと画策したが、トランプ大統領は金委員長に「拉致問題は安倍首相にとって個人的にとても重要な案件」と伝えるに留まった。 にも関わらず、日本のメディアは政権に忖度し、金委員長が「日本と会談する用意がある」と発言したかのように報じ、9月にも日朝会談が行われるかのような雰囲気を作ろうとしている。 これは日本の焦りの裏返しに他ならない。
日本政府は14日、モンゴルのウランバートルで開かれている北東アジア地域の安全保障問題を話し合う国際会議で朝鮮の代表との接触を図りはじめたが、進展は見られていない。
問題は安倍首相だ。 朝米首脳会談をうけ「日朝会談の用意がある」と発言したかと思えば、拉致被害者家族の前で「首脳会談をこちらがやりたいといえば足元を見られる」「私は北朝鮮にだまされない。1994年から拉致問題に取り組んできたが、何度もだまされてきた。北朝鮮のだましの手口は分かっている」「圧力を緩めてはダメだ。中国、韓国も制裁を緩めてはならない」と言ってのけた。 これでは朝鮮も相手にしないだろう。
事実、朝鮮は論調を変え「日本」「日本政府」と区分して「安倍一味」と名指しで非難している。 次期政権との会談を念頭に置いているもの思われる。 日本外交は正念場を迎えている。
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